ドラマや映画にもBGMって使われてますよね?あれって映像の効果を盛り上げるための音楽です。映像と音楽がピッタリ一致するためにはまず映像を撮ってその秒数に合わせて音楽を録音して映像にはめ込むことはおそらくみなさんご存知でしょう。特に最近では家族や風景の動画を撮ってそこに自分で音楽をはめ込んでホームビデオを完成させるなんて趣味でやっている人も多いでしょ?


映像の秒数に音楽をはめ込むことは対して難しくないですね。それでも映像の盛り上がりに音楽の盛り上がりを合わせようとするとなかなか編集が大変じゃないですか?


実はミュージカルの場合、これと真逆のことをしています。つまり大枠の音楽を作ってそれを調整しながら生の舞台に合わせるわけです。これってたぶんミュージカル意外ではない気がします。最近目にする、というか僕もやったことありますが、スクリーンの映像に生のオケで音を付けていくコンサート。あれもライブと言えばライブですが、映像の秒数は固定されているので何回かやれば比較的簡単にピッタリ合わせられます。しかしミュージカルの場合は舞台上も生なので勘と芝居を読むことが必要になってきます。


アメリカでは「この拍のところにこの言葉を合わせる」というふうに役者さん側が音楽に合わせることが多いようです。「4回繰り返す間にこのセリフを全部入れてください」みたいな指示は結構演出から出されていたりします。それが比較的可能なのは英語という言語が音楽的なリズムを持っているから。英語だとただ喋ってるだけなのにラップに聞こえたりしません?あれです。でも日本語って無理やりリズムを作らないと音楽に乗せることはなかなか難しい。それでも最近の日本語のラップは上手くやってるなぁと思いますが。


ちょっと話がそれちゃいましたが、言語にリズム感がない日本語の場合リズムを使って音楽に合わせるのは難しいんですね。じゃあどうするのが良いのか?結局音楽側がテンポを調節しながらお芝居に合わせていくことになるわけです。


今やっている「アルカンシェル」はこうした「台詞合わせ」の難易度が高いことは前にも書いた気がしますが、その中でも台詞だけでなく感情にも合わせなければならないと思っているシーンが「マルセルの部屋」のシーン。コンラートから逃げ切った2人がマルセルの部屋に。そこで2人の距離が近くなっていきデュエットに至るまでのあのシーン。カトリーヌの独白からふたりが戯れる場面を経てキスシーン。この流れが「アルカンシェル」の中でも「音楽的見せ場」であることは間違いありません。あくまでお芝居の邪魔をせず、でも平坦にもならず、そして手を取ってからキスシーンまでの感情の盛り上がり、こうしたものをどう音楽的に演出するかがここの課題。


リピーターのお客様はもしかして気づいてるかな?手を取るあたりからキスまでの流れが東京公演中程から変わったんです。別に演出家に「こうしてください」と言われたわけではなく、マルセルとカトリーヌで相談して決めてやってみたんではないかと思ってます。「やっぱり暖かいわ、あなたの手」という台詞の言い方がガラッと変わりましたね。僕は変わった瞬間「そう来るか!」とテンションが上がってしまいました。音の入るタイミング、その後に続くキスから歌に入るまで、ここが「アルカンシェル」の中でシンプルだけど一番感情が動いているシーンのひとつ。こういうのってピッタリ合ったときワクワクしてしまうのはミュージカル指揮者病なのかもしれません。一番良いと僕が思ってるのはお客様が音楽が鳴ってることを意識しないで場面に集中できること。映画なんかでお芝居が素晴らしくて音楽が流れてるの気が付かないことってありません?あれ、聞こえてないんじゃないんですよ。ちゃんと音楽効果で感情はより盛り上がってるはずなんです。音楽がシーンに合ってないと逆にイライラしてしまいます。もう音楽邪魔!みたいな。


違和感がないからこそ盛り上がるというのがベストなBGMなのかなと思う今日この頃なのです。ちょっとマニアック。