エリザベートを指揮するのは難しい。

今までたくさんの舞台に関わらせてもらい、オケもいろんな場所で演奏させられた。舞台奥、下手袖、奈落、半地下…そういう環境的な難しさは確かにある。そういう意味ではエリザベートは正面ピットだし、深くて舞台上が見えにくいがそれでもモニターで見るより合わせやすい…はずなのだ。なのにやはりエリザベートは別格だ。


ミュージカルにはざっくり言うとショーがベースになっているアメリカ系とオペラ的な考え方で作られたヨーロッパ系がある。それは音楽の種類ではなくあくまで考え方の話だ。

『オペラ座の怪人』や『エリザベート』は明らかにオペラを意識して書かれている。


ではショーベースのミュージカルとオペラベースのミュージカル では何が違うのか?ショーベースのものはいわゆるバンド系に近く、楽曲のノリみたいなものがとても大事になってくる。かたやオペラベースのものでは曲によってはノリも大事だが、それより歌とオケがどう一致して進むか、みたいなところがかなり必要になる。


僕がドイツにいた頃オペラハウスでミュージカル が上演されることも多かった。しかし実際オペラハウスで上演されているミュージカルは基本みんなが指揮に合わせて歌うことが多く、すべての音楽は指揮者に左右される。クラシックのオペラというのは基本的にこの方式だ。

ところが日本でミュージカル というと指揮を見て歌うとことより指揮が歌い手に合わせることが圧倒的に多い。

僕のいたコミッシュオーパー・ベルリンというオペラハウスの演出は当時かなり斬新で、歌手たちは寝転んだり後ろを向いたりして歌うことがしょっちゅうあった。それでも指揮にぴったり!?一体どうやってるんだろ?と、ある日舞台上に立ってみた。するとなんと客席からは見えないところに20台以上のモニターが仕込まれ、どういう体勢でも指揮が見えるのだ!これには驚いた。そして日本の場合。今のエリザベートもそうだが完全後ろ向きでの歌い出しなんかざらにある。しかし指揮のモニターなんて一台も舞台上にはない。そうなのです、この難しい合わせをブレスと勘と勢いで合わせているのです。しかもご承知どおり舞台面がかなり高いため、指揮台で背伸びをしても舞台奥は見えないのです!逆に言えば役者さんの目線に指揮者が入りづらいわけです。


つまり何が言いたいかというと現行の東宝版エリザベート(前の版はよく知らないのですが)をオペラ的に指揮するにはオペラの経験とミュージカル の経験が十分あってもまだ足りないほど難しいのです。いわゆる「職人さんの技術」が必要になるわけです。

宝塚版はちゃんとみていないので正確な事が言えないのは残念だが、現行東宝版はとにかくハードルが高い。しかもダブルキャスト、トリプルキャストが一回公演ごと変わりそれぞれ個性的、さらにオケメンバーもダブル人数いることが事態がさらに複雑になる。


ここまで複雑なのはおそらく日本だけだろうと思う。いや、別に文句を言っているわけじゃなく、むしろこれだけの高いハードルの演目に挑戦できていることを嬉しく思う。

そしてその挑戦もあと二週間で交代となります。最後まで頑張ります!