<第2話>会社の”親子関係” | 品質安定化設計ラボラトリー日記

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かつて開発業務で活用した「品質不良を開発・設計段階で未然に解決する」タグチメソッド(品質工学)を多くのものづくりエンジニアの皆さんに知っていただきたいと思い、そのために自分自身も学び直しながらブログでご紹介してゆきます。

第1章 基礎知識としての

     会社の仕組み

(2)親会社と子会社の関係

 中小企業にはあまり見られませんが、

大手企業には親会社と子会社という

”会社の親子関係”が屡々見られます。

 

 なぜ、親会社と子会社があるのか?

 

 その前にまず、「事業」とは何か?

 

 勿論、それは会社のビジネスのことで、

一般的に下記のような一連の流れに

なっております。

 

 ①材料もしくは商品そのものを仕入れる。

 ②材料を加工して自社商品を作ったり、

  商品の顧客ターゲットを絞り込むことで、

  新たな付加価値を添える。

 ③商品を顧客に販売して価値を提供し、

  それに見合った「代金」を回収する。

 

 一つの会社でも、複数の事業を

運営することがあります

 

 例えば、会社四季報に記載された

三菱重工業の2021年3月期のデータで

事業内容を見てゆきます。


 社名の隣にある【特色】の欄には、

「タービン、航空、防衛、造船を手掛ける

総合重機」

「ターボ、フォークリフトで世界的」

との記載がある一方で、

「小型機は凍結」という風に、

凍結された事業についても

記載されております。

 

 その隣の【連結事業】の欄には、

エナジー、プラント・インフラ、

物流・冷熱・ドライブシステム、

航空・防衛・宇宙という業種が

記載されております。

 

 同じ会社内での事業と言っても千差万別で、

商売の仕方、利益、儲けなどは皆違っており、

それぞれに違った景気の波や寿命も

あります。

 

 会社経営者の使命は、

その時々で「儲かる事業」を選択して

そこに資本(資金、物資、人材)を投入し、

逆に「儲からない事業」からは

資本を撤退させて

より有効に運用することと言えます。

 

 では、なぜ会社は複数の事業を

運営するのでしょうか。

 

 複数の事業を持っていれば、

ある一つの事業が下火になっても、

別の事業でカバーできますし、

生命体の代謝のように

常に新しい事業を育て続けることで

会社の生命を繋いでゆくことができます。

 

 一方で、あまりに多くの事業に

資本を分散し過ぎると、

どの事業も成果が出にくくなりますから、

「選択と集中」が肝要になってきます。

 

 上記の三菱重工業の場合、

そのような経営努力の効果として、

【上振れ】という欄があり、

航空機事業が販売先の減産で

悪化が続いているものの、

製鉄機械、ターボ、運搬機械の事業は

逆に改善している現状が記載され、一方、

小型機事業では開発縮小に伴って

資産売却増により

前号比増益幅が拡大との記載もあり、

また今後の見込みとして、

2023年3月期は航空機事業がやや改善し、

火力関連事業は堅実に増益が続くとの

記載があります。

 

 また、最近の話題に着目した

【脱炭素】という欄もあり、そこには

二酸化炭素の回収、貯留技術を強化し、

海外での実証を増やし、日本IBMとの協業で

サプライチェーンの構築を狙っていることと、

さらに水素技術と合わせて

2040年を目途として「カーボンニュートラル」を

達成すると宣言していることが記載されて

おります。

 

 ところで、

決算書には「単独」と「連結」の

違いがあるということをよく聞きます。

 

 会社の規模が膨張してくると、

一社で多くの事業を運営することが

困難になるため、

部門や事業部などを別会社にして

管理の効率化を図ることがあります。

 

 こうして別会社として独立した会社を

連結会社又は子会社と言い、

法律上は別会社であっても、

実際は親会社を中心としたグループで

ビジネスを行っております。

 

 上記の三菱重工業の【株主】の欄の

記載された箇所の一番下に

【連結】という欄がありますが、

これが連結会社(子会社)に関する情報で、

三菱ロジスネクスト、

三菱重工エンジニアリングが

記載されております。

 

 また、同社の【業績】の欄に

「連17.3」という見出しが見えますが、

これは2017年3月期の連結決算書に基づく

業績を表しております。

 

 ゆえに、「連結決算書」こそが

グループ全体の実態を表しているのです。

 

 株式は親会社で発行され、

連結会社(子会社)は発行しませんので、

投資家は連結決算書を吟味した上で

親会社の株式の購入の可否を

判断するのです。

 

 ところで、

親会社には、三菱重工業のように

自社で事業を運営している会社の他に、

ホールディングカンパニー(持株会社)が

あります。

 

 持株会社は単に子会社の株を保有し、

子会社の経営管理に専念している会社です。

 

 例えば、元々はビールメーカーであった

麒麟麦酒が、今では純粋な持株会社として

キリンホールディングスとなり、

実際のビール製造販売事業は

新しく子会社として設立された麒麟麦酒に

移管されました。(2007年7月)

 

 当然のことながら、

単独決算書と連結決算書では

内容が違いますし、連結の範囲が変われば

決算書の内容も全く違ってきます。

 

 従って、連結の範囲を決める基準が

必要になります。

 

 基準には、

「持株基準」と「支配力基準」があります。

 

 「持株基準」とは、親会社が子会社の株を

保有しているという基準ですが、親会社が

直接出資している子会社だけではなく、

間接的にでも議決権の過半数を掌握すれば

子会社として連結の範囲に含まれます。

 

 「支配力基準」は議決権の過半数を

掌握していなくても、取引、役員派遣、

資金援助などにより子会社の経営を

実質支配していれば、連結の範囲に

含まれるという基準です。

 

 「持株基準」は

端的で解り易い基準ですが、

この基準で連結範囲を決めた場合、

不都合が生じることがあります。

 

 その不都合から逃れ、

見かけ上の業績を良く見せるために、

「利益操作」とか「粉飾決算」とも呼ばれる

「不正会計」が行われることがあります。

 

 というわけで、本ブログの最後に

イヤな話で恐縮ですが、この「不正会計」の

典型的な手口の例をご紹介いたします。

 

 例えば、グループ内の子会社が大赤字を

出した場合、そのまま連結すれば、

当然グループ全体の連結決算の内容が

悪くなって見えますが、そこで、

その子会社の株式のうち

親会社の持株割合(議決権割合に相当)を

50%未満にするため、資本関係のない

取引先に子会社の株式の一部を持って

もらうことで、赤字を出した子会社を

連結から外し、連結決算の内容が

改善したように”粉飾”するという手口が

あります。

 

 逆に、親会社が赤字を出した場合、

販売子会社の持株を第三者に売却して

連結から外し、次いで親会社はこの時点で

子会社でなくなった販売会社に対して

高額で自社製品を販売し利益を高く

計上すれば、このときの売上は

連結グループ全体の売上高となり、

業績が改善されたように”粉飾”できます。

 

 このような持株基準を利用した

「不正会計」を防ぐために考え出されたのが

支配力基準だったのです。

 

 このような連結外しによる「不正会計」を

見抜くことは、我々一般人には勿論、

プロの監査人でも容易ではないと言います。

 

 せめて

我々のような株式投資の初心者でも

できることとして、「連結の範囲」には

注意を払い、もしも子会社だった会社が

会社四季報の記載から消えた場合は

連結グループ内で「何かあったのでは?」と

疑ってみることも必要になります。

 

 以上、三菱重工業の事例を中心に、

連結グループの実態を

会社四季報の最新版で確認してみました。

 

 

 本日はここまでといたします。

 

 ご精読、ありがとうございます。

 

 次回は

四季報から見える会社の強みについて

学びます。

 

 お楽しみに。

 

<参考文献>