品質不良を早期解決! タグチメソッドをExcelで手軽に使いこなす<第22話> | 品質安定化設計ラボラトリー日記

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かつて開発業務で活用した「品質不良を開発・設計段階で未然に解決する」タグチメソッド(品質工学)を多くのものづくりエンジニアの皆さんに知っていただきたいと思い、そのために自分自身も学び直しながらブログでご紹介してゆきます。

5.「5分間砂時計」で振り返る

  望目特性の解析手順

 今回は望小特性の一例

「送風機の騒音の低減」を取り扱う

予定でしたが、予定を変更し、

前回までの

「5分間砂時計の開発」の事例を振り返り、

望目特性の解析の流れを復習します。

 

<今回の内容>

5.「5分間砂時計」で振り返る

  望目特性の解析手順

(1)因子(制御因子、誤差因子)と

  水準の設定

(2)直交表への割り付け

  (内側直交表、外側直交表)

(3)実験の実施とデータの取得

(4)SN比と平均値の算出

(5)重回帰分析による

  SN比改善因子の特定

(6)平均値の目標値への合わせ込み

(7)確認実験の実施

(8)私感

 

(1)因子

  (制御因子、誤差因子)と

  水準の設定

 因子を決める前に、

一番に考えなければならないのは

「基本機能」です。

 

 一般に「砂時計」の基本機能は、

信号因子「砂の量」と特性因子「時間」

又は「計測時間」が直線的な相関を持つ

動特性と考えることができます。

 


 しかし、「5分間砂時計」の場合は、

「5分」という一定の時間を

使用環境に関係なく正確に計測できる

静特性(望目特性)と考えた方が

実態に即しています。

 

 

 つまり、目標値が5(分)、

使用環境は温度、湿度、振動(の有無)が

考えられ、これらを時間のばらつきの要因と

なりうる誤差因子としました。

 

 

 誤差因子は現実に起こり得る範囲で

最大限に水準を振りました。

 

 これらの誤差因子に対抗して

時間のばらつきを低減し、

平均値を目標値「5分」へ合わせ込むために

設計者が制御できるのが制御因子で、

「5分間砂時計」について8種類考えられ、

うち1種類は2水準、残り7種類は3水準を

設定しました。

 

 

 従来仕様の水準は第2水準に設定すると、

後の解析が楽になります。

(赤文字部分)

 

(2)直交表への割り付け

  (内側直交表、外側直交表)

 2水準の誤差因子3種類は、

L4直交表に則って外側直交表に

割り付けることができます。

 

 

 一方、2水準が1種類、3水準が7種類の

制御因子は、L18直交表に則って

内側直交表に割り付けることができます。

 

 

 

 こうして、タグチメソッドの主体となる

直交実験の実験計画表が完成しました。

 

 

 後はこの実験計画表に則り、

制御因子18通り*誤差因子4通り

=72通りの条件での実験を実施しました。

 

(3)実験の実施とデータの取得

 測定方法は直交実験の要であり、

再現性のある方法でなくてはなりません。

 

 

 かくして、直交実験のデータが得られました。

 

 

(4)SN比と平均値の算出

 制御因子の18条件各々につき、

ばらつきの指標となるSN比と、

感度、平均値を求めました。

 

 

 望目特性の場合のSN比の計算式は、

 

SN比=10*log(m²/σ²)

   =10*log{(Sm-Ve)/n/Ve}

※Sm=(Σy)²/n、 

 Ve=Σ{y-Avr(y)}²/(n-1)、

 Avr(y)はyの平均値(=Σy/n)

 

となります。(但し今回は、n=4)

 

 上表では感度も求めてみましたが、

感度と平均値にはほぼ直線的な相関が

あるため、平均値だけで評価、解析しても

問題なしと判断しました。

 

(5)重回帰分析による

  SN比改善因子の特定

 解析に先立ち、

制御因子の各水準をダミー変数に置き換え、

従来仕様の第2水準を削除して

冗長性を排したSN比と平均値のデータを

作りました。

 

 

 このデータでSN比について重回帰分析を

実行し、切片と各制御因子の第1、3水準の

回帰係数を算出しました。

(第2水準の回帰係数は0)

 

 

 この結果から各制御因子について

回帰係数の変動幅(レンジ)を

SN比への影響度としてグラフ化し、

影響度ベスト4の制御因子と、

その中で最も回帰係数の高い

(=改善効果の高い)水準を選出しました。

 

 

 通常、品質工学では

SN比の改善には全制御因子のうち

半数が有効に利用できれば良いと

考えられております。

 

 このベスト4によるSN比の増加分を

「利得」と呼び、

この値からばらつきの改善割合を

算出しました。

 

 

 ばらつき幅(分散σ²)は

従来仕様に比べて9.18分の1に

低減できたことが判りました。

 

 

 標準偏差σでは従来仕様に比べて

33%に低減され、言い換えれば

67%減じられたとも言えます。

 

(6)平均値の目標値への

  合わせ込み

 今度は平均値について重回帰分析を

実行し、切片と各制御因子の第1、3水準の

回帰係数を算出しました。

(第2水準の回帰係数は0)

 

 

 この結果から各制御因子について

回帰係数の変動幅(レンジ)を

平均値への影響度としてグラフ化し、

平均値への影響度が高い

(平均値改善効果が高い)制御因子として、

「砂の量」が選出されました。

 

 

 次に重回帰式を使い、切片と

SN比の改善ベスト4の制御因子の

最適水準での回帰係数、

「砂の量」の各水準での回帰係数を代入し、

「砂の量」と「時間」の平均値(予測値)の

関係を散布図にしました。

 

※ベスト4と「砂の量」以外の

3種類の制御因子は

従来の第2水準のままですから

いずれも回帰係数は「0」となります。

 

 

 このグラフの近似直線とその数式を

求めました。

 

 

 この直線の数式から

時間yが5(分)となるような砂の量x(g)を

算出しました。

 

 

 かくして、新規仕様ができました。

 

 

(7)確認実験の実施

 

 確認実験での時間の実験データは、

5.0、4.8、4.9、5.1(分)となりました。

 

 平均値は4.95(分)で5(分)にほぼ一致し、

SN比は31.67(db)となりました。

 

 SN比について吟味しますと、

SN比の改善ベスト4の制御因子で

SN比を改善した場合、

SN比の予測値34.19(db)に対し、

確認実験におけるSN比は31.67(db)で、

両者の違いは7.4(%)に過ぎず、

ついに社長のGOサインで、

この5分間砂時計は

量産の運びになりました。

 

 以上を持ちまして、

5分間砂時計の開発は

目出度く完了しました。

 

(8)私感

 自分が某家電メーカーで教わった

QSDもタグチメソッドをベースにした

設計手法ではありますが、

基本機能、誤差因子、制御因子を

洗い出したらすぐに直交表に則って

直交実験を実行するのではないのです。

 

 その前に、「診断実験」というものが

ありました。

 

 診断実験の目的は、洗い出した

基本機能、誤差因子、制御因子の有効性を

「診断、確認」することです。

 

 しかし、

品質工学(タグチメソッド)には元々

直交実験結果の解析(要因分析)によって

求められた最適条件が

本当に「最適」なのかを確かめる

「確認実験」というプロセスがあるため、

区別のために「診断実験」と

命名されたのです。

 

 手法は現実に起こり得る最大バラツキを

再現できるように誤差因子の組み合わせを

2条件(ばらつきの極小と極大になるように)

設定し、

制御因子の組み合わせは

従来、SN比改善、平均値改善の

最低3条件として実験を行って

データを取得し、

現実に起こるばらつきが再現されているか、

SN比と平均値に対して制御因子が

本当に改善効果を奏したか、

診断します。

 

 現実のばらつきが再現できていない場合、

誤差因子の再現効果を個々に実験検証で

診断しなければなりません。

 

 制御因子の改善条件によって、

本当に改善すれば

そのまま直交表に割り付けて良いし、

逆に改悪の結果になった場合は

逆効果の理由を考察した上で

逆方向に振れば改善が期待できると

考えられます。

 

 問題は、制御因子の改善条件に

「改善」も「改悪」も見られなかった場合で、

この場合は面倒ですが、

制御因子の改善効果を個々に実験検証で

診断しなければなりません。

 

 タグチメソッド(品質工学)は

少ない実験数で各因子の効果を分析し、

効率よく最適設計条件を弾き出す

便利なツールではありますが、

有効に用いるためには

基本機能、誤差因子、制御因子の有効性を

しっかり把握した上で用いることが

大切になります。

 

 そのために、

上記の「診断実験」で因子の効果を予め

実験検証しておくのも良いでしょうし、

或いは、日産自動車における

品質ばらつき抑制手法「QVCプロセス」で、

車両性能の平均値とばらつきに対する

部品特性(制御因子に相当する因子)の

効果を、物理モデルに基づく機能展開で

定量化しておくのも有効であろうと

思います。

 

日産自動車が誇る品質バラツキ抑制手法! QVCプロセスの研究<第20話> | 品質安定化設計ラボラトリー日記 (ameblo.jp)

 

 

 本日はここまでとします。

 ご精読、ありがとうございました。

 

 次回からは、望小特性の一例として、

「送風機の騒音の低減」を取り扱います。

 

 ご期待ください。

 

<参考文献>

 広瀬健一・上田太一郎/共著

 「Excelでできるタグチメソッド解析法入門」

 同友館

 

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