彼は口笛を
 吹いていた


 陽が落ちかけ

 海の色が
 変わり始める
 夕暮れの海岸で


 宵闇が訪れ

 波音だけが
 どこまでも広がる
 砂浜で


 それは彼女が
 元気を
 なくしていたり

 何かに
 追われるように
 悩んでいる時に


 「心配ないよ」


 「大丈夫さ」 


 そう信じてくれた
 優しい彼が

 彼女の心を
 包み込むように
 奏でてくれた
 大切なメロディ


 消えそうな気持ちを

 抱きしめるように


 壊れそうな心を

 慈しむように



 ただ口笛を吹く
 彼の横顔を


 言えない言葉を

 抱えながら


 言っては
 いけないと

 言い聞かせながら

 彼女はずっと

 みつめていた



 それでも
 我慢できずに

 零れ落ちた涙


 隠すことも
 できずに

 溢れ出した涙


 彼の口笛は
 その涙をも
 救おうとして


 彼女の心の中に

 響き渡る


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