浜田省吾の「家路」は1980年に発売された「Home Bound」に収録されている曲である。「Home Bound」は日本語で家路であるから、アルバム自体がこの「家路」から発想されたものなのだろう。あるいはアルバムを初めてアメリカでレコーディングしたから、異郷の地での感傷かもしれない。
この家路を最初に聴いた時には、働き疲れた父親が家族の元に帰宅する様を描いているのかと思った。ただし「夕闇に浮かぶ街を見おろし」という歌詞には何か違和感があった。筆者には大抵、家は丘の上にひな壇上に立ち並んでいるようなイメージがあったからである。
しかし子細に詩を読んでみると、この主人公は必ずしも「父親」ではなくて、むしろ未だ「本当の愛」に出会っていない、孤独な青年に見えてくる。とすれば、ある夕暮れ時に電車の窓から見える街の明かりを見て、あの明かりの家々には「暖かい家庭」があり、一方自分には家族がいないことを感じたのかもしれない。
「形あるもの やがて失うのに」人は夢を求めて人生を歩んでいく。人生とは挫折の連続である。特に若い頃は何をやってもうまくいかず、人を恨み、社会を憎み、そして自分のエゴに気が付く。
苦しみながら生きていくのが人生である。人生という道は、この目の前にある道と同じようにどこまでも続いていくのである。途中に様々な人に巡り合うだろう、友人や勿論恋人や、やがて家族もできるのだろう。
でもいつかは別れなくてはならない。それが人の運命である。だから孤独を背負ってこの道を歩いていこう。遠くかすかに見える地平の果て、道は空とつながっている。空とは天であり、冥界である。
まるで東山魁夷の「道」になってしまった。
旧建築専科 20200102