三国の主ともなれば、何かが見えなくなる。人の春にも、かすみがたなびき、冬には見えていたものが、見えなくなるということであろうか。

 宮城谷昌光の長編小説『風は山河より』から。三国の主とは駿河の太守今川義元のこと。この小説には膨大な数の地名と武将が出てくる。とてもじゃないが覚えきれない。最初のうちはページを戻って確認していたが、いつの間にか諦めた。登場人物やお城の素性が曖昧でもその場その場で納得して読み進め、今は三巻目まできた。膨大な情報量のある小説だが、何故か爽やかな印象がある。

 引いたフレーズは箴言として書かれたのだろうが、春の情感を言い当てていると思った。心浮きたつ春に対して春愁という季語もある。春は少し心の目が曇るのかも知れない。

かすんでかさなつて山がふるさと 種田山頭火

霞む中月日もつとも霞みけり 林 翔

『新日本大歳時記』講談社より。