ポットから

注がれる

お湯は

やさしい

言葉のようだ

私の

心の角砂糖は

カップのなかで

気持よく

溶けてゆく

 詩集『くじけないで』柴田トヨ著、飛鳥新社から。10年ほど前に話題になった柴田トヨさんの99歳での処女詩集だ。その中の「溶けてゆく」という詩。

 タイトルになった「くじけないで」という作品は。

ねぇ 不幸だなんて

溜息をつかないで

 から始まり。

あなたもくじけずに

 で終わる。

 当時柴田トヨブームという感があった。人は誰でもくじけそうになることがあるだろう。私もこの詩集を「くじけないで」から読んで本棚に立てた。

 今日何となく読み直してみて「溶けてゆく」を見つけた。この詩前半は直喩、後半は暗喩でできている。「お湯はやさしい言葉のようだ」「心の角砂糖」両方とも素敵なレトリックだ。つくづく詩は比喩で書くものだなあ、と思った。「くじけないで」には比喩は使われていない。直接読者に話しかけている。90歳代の作者を意識してしまう。「溶けてゆく」は作者は誰でもよい。作為の無い比喩の力だろう。調べてみたら柴田トヨさんは2013年に亡くなっていた。