ひとり膝を抱けば秋風また秋風 山口誓子

萩ほろりほろり文鳥帰らない  神野紗希

花野から腹を減らして帰りけり 菅野孝夫

 淋しさを詠んだ三句。淋しさの程度は大中小か。誓子は「ひとり膝を抱けば」と率直に淋しさを言っている。昭和十五年の作品である。この時代の詩人は正直なのかも知れない。神野紗希さんの句は萩から文鳥への水平移動がいい。「ほろりほろり」と「帰らない」は同じ位の質量を持つ淋しさだ。主宰の句は淋しさを韜晦している。晴と褻、雅と俗の取合せ。花野の美しさは淋しさを孕む。腹を減らして花野から帰る中途半端な充実感が淋しいのだ。

紫苑が咲いていた。