私の勤務しているクリニックは、週に一度平日午後休診日がある。

みんなで【今日は仕事終わりに何をするのか】を話すのが定番だ。


ここ数週間、病院受診が続いていた私。

上司は毎週、そっと声をかけてくれていた。


3月14日 病院受診日


上司『今日も検査の日だっけ?』

私 『今日はこれまでやってきた検査の結果説明を聞いてきます。追加でさらに検査が必要とかならなければ、手術の方法や日程の話ができると思うんですけどね。』

上司 『そっか。決まるといいね。日程は自分のタイミングで決めていいからね。』


3月15日 報告


まずは上司に主治医からの説明を一通り伝える。


上司『決まってよかったね。(カレンダーを見ながら)じゃあここからこのあたりまでは休んで、あとは、仕事復帰は様子見ながらでいいから。出てきても、できないことは誰かに変わってもらえばいいし。仕事のことはあんまり気にしないでいい。そのときそのとき、また考えよう。』

少し心配そうな表情で話を聞いてくれる上司から治療に専念していいんだよ、という思いが伝わる。


がんになったこと、仕事を休むこと、心配や迷惑をかけること…申し訳ない気持ちでいっぱいの時に寄り添ってくれる上司には、本当に感謝してもしきれない。


その後、他のスタッフにも、同様の説明をする。

『決まってよかったですね』から始まり、

『どんなかんじで(治療)やるんですか?』

『いつ(仕事に)戻れるの?早く戻ってきてね。待ってるね。』

『必要なものあれば届けますからね』

『面会ってできるのかな?』

『洗濯物取りに行きますよ。ここ(クリニック)で洗濯するから大丈夫!』

『毎日交代で息子さんの様子見に行きますね。』

『昼休み、Zoomで話しましょ』

『オススメのマンガ貸しますよ。何冊まで持っていけますか?』

『退院日は先生の車にみんなで乗って迎えにいきますよ。帰りに先生のおごりでご飯食べましょ』


時に突っ込んだ質問もあって答えに困ることもあるけど、みんないつも明るくて、笑いの絶えない職場である。


一人が『マンガ貸しますよ』と言えば

『コナン全巻置けるかな?』『読み切る前に退院するんじゃない?』『スタッフの間で、あの人めっちゃマンガ持ってきてるって噂になるねー』『そうそう、今どきデータじゃなくて本で持ってきてるよって』『じゃあネトフリをダウンロードしていけば?』『それなら◯◯(韓流)がオススメです』『◯◯カッコイイんですよー』『◯◯(バラエティ)とか、笑えていいんじゃない』『笑ったら傷に響きそうー』と盛り上がる。


私を心配してくれているのは間違いない。

両側乳がんで手術をうけるということを、軽く受け止めているとも思わないが、その上で、

『頑張ってください』『お大事にしてください』

とだけ言って、あとは私に話しかけにくい、触れられない微妙な空気にならず、

また、こちらを見ながらヒソヒソ話をするような感じの悪い人もいない(過去の職場にはいた…)。

私への配慮でいつも通り明るく接してしてあげよう、というより、ただただいつものノリでおしゃべりしているだけだと思うが、私には居心地がよい。

【大変な治療が待っている】と不安にとらわれず【いらないものを取ってくる】くらいの気持ちで、手術までの日を過ごせそうな気がしてくる。

(これはあくまで個人の見解で、笑って話をされて傷つく方もいるだろうし、そっとしておいてほしい方も、大勢いらっしゃると思います)


数日前、帰り際あるスタッフに

スタッフ『息子さんたちに話したの?』

と聞かれた。3度目くらいの質問だった。

私『まだですね。はっきりしないと説明できないので。』

この答えも、3度目だ。

スタッフ『私なら言えないな、言えるかなーとか思ってさ。』

私『あー。ねーっ。じゃあ、お疲れさまでしたー』


笑顔で相槌をうって別れたつもりだったが、

(そう思うなら、何度も聞かないでよ。デリケートな話だよ。たとえ話したとしても、どんなふうに話したとか、反応はどうだったとか、言いたくないよ)と内心ムッとしてしまったのが、出ていたのかもしれない。


翌日

スタッフ『ごめんね、帰ってから、デリカシーなかったなって、そんなの聞くなよほっとけよってかんじだよね、ほんとごめんなさい。』

と謝られた。

私『大丈夫ですよ、いいんですよ、聞きたいこと聞いてください。私が答えられることなら答えますからねー。』


明るくていい人だけど悪気なくつっこんだ話をグイグイ聞いてくる人だから、私も負けずに悪気なく、答えたくないことはさらっと話を終わらせることにする。


病気のことや夫のことに触れられると、ちょっとしたことでも、とても敏感に反応してしまう。

病気じゃない人、ご主人が健在の人を見るだけで、勝手に辛くなることもある。


不安になったり、悲しくなったり、イラッとしたり、傷ついたり、モヤモヤしたり…

考えることも多いし、身体は時々痛むし、無理して過ごす場面も多く疲弊するけど、

笑って過ごせる時間は素直に笑って、

なるべくストレスが少なく過ごせる方法を、自分なりに見つけていこう。