大宮妄想小説、BLです。

ご理解のある方のみ、どうぞ。

苦手な方、不快に感じる方はご遠慮下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和也side



まさかそれが
意図的に置いてったものだなんて。

これっぽっちも
思わなかった。



「……鍵、忘れてんじゃん。」



いつもは絶対
目覚まし係の俺が起こすまで
何があっても起きなくて。

目を覚ましたら真っ先に目に入る
ちょっと口が開いたまんまの
子どもみたいな寝顔がなかったことも。



ちょうどこの間
一緒に初詣に行った時の。

お揃いで買ったキーホルダーのついた
俺の部屋の合鍵が、机の上に置かれてることも。



きっと、すごく大事な仕事が
朝早くから入ってて。

あんまり急いでたから
そのまま合鍵、忘れてったんだって思って。



合鍵、忘れてるよ…って。

LINEで一言、伝えておこうって
トーク画面を立ち上げようとして。

そこでやっと。
その時起きていた異変に気付いた。



「…………ない、」



何度、画面を見返しても。

昨夜までは確かにあったはずの
智のLINEが見つからなくって。



電話で連絡しようと思っても。

”この電話は
現在使われておりません”…って。

機械的に答える女性の声が
流れてくるだけ。



何度、番号を確認しても。
何度、智のスマホに連絡しても。

いつもの、ちょっと力の抜けたような

大好きな声が答えてくれることはなくて。



一切繋がらない電話に。
 

寝巻のまま

自分の部屋を飛び出した。









智の家に

向かってる間も。


タチの悪い冗談やって…って。

 

そんな風に考えることしか

できなかった。



最近、バラエティーにも
出るようになってたから。

テレビのどっきりと
普通の人のどっきりの境界線が
バカになってるんだ、って。



なにやってんの、って。

 

智の部屋に行ったら

ちゃんと怒んなきゃ…って。



苦しくなる

心臓を押さえて。

 

こみ上げてくる不安を

必死に誤魔化して。




がむしゃらに

走りながら。


そんなことばっかり考えた。



だから…


着いた

超高層ビルのマンションに。

何度目にしても慣れないまま
合鍵使って、入ろうとして。

二宮さん…って、後ろから呼ばれた
智のマネージャーの、櫻井さんに。



智は、昨日

引っ越したよ…って言われても。



言ってることも。

起きてることも。

まだ、全然

理解することなんてできなかった。









「記者から撮られた写真を
買い取る代わりに、俺とは別れる」



合鍵を返してもらいに来た…って。

 

そう話す櫻井さんに

ちゃんと話してくれないと渡さない、って。


そうやって詰め寄って

なんとか話してくれたことは。



週刊誌に撮られた俺達の写真を

買い取る代わりに。

 

社長が

智に出した条件だった。









たった一つの

その条件が。

智が昨日、社長から言われた

唯一の交換条件だったんだ…って。



ぽつり、ぽつりと。

 

憐れむような

それでいて…苦しそうな顔をした櫻井さんが。

 

小さな声で

教えてくれた。



「…………智くんも。頑張ってたよ。」

「……………………」

「”それだけは…”って。

いつも、何にも言わない智くんが。初めて。」

「……………………」

「……でも。

もし、その記事が出たら。」

 

「……………………」
 

「君も、智くんも…社会的なダメージは大きい。
それは…分かる、よね。」


「……………………」

「……それに。

こういう言い方して……悪いけど。」

 

「……………………」


「普通とは違う…二人の関係を。

社長がさ……許せるはず、なくて………」

「……………………」

「……………………ごめん、」









ごめん、って。

言われても。

 

言ってることが

イマイチよく、分かんなかった。



櫻井さんが

言ってることが。

全然…全く

頭の中に入ってこなくて。



人形のように。

 

言われるがまま
なす術もなく、合鍵を渡して。



そうして。

気付いたら。
 

自分の部屋にいた。









どうやって

櫻井さんと別れたのか。
 

どうやって

家まで帰ってきたのか。

なんにも。
なんにも覚えてなかった。



”別れる”…って。

 

その言葉だけが

ずっと頭の中を、ぐるぐるして。

ふと、気付いたら。

自分の寝室の
ベッドの前に突っ立っていた。








目の前にある

乱れたままのベッド。



昨夜。

智と愛し合ったアトが残る。


シーツも、布団も

しわくちゃになったままのベッドに。

ぽす、と身体を沈めて

ベッドに残る、智のニオイを吸い込んだ瞬間。


バカみたいに

ベッドに縋りついて。
 

声を出して

わんわん泣いた。









なんで話を
聞いてあげられなかったんだろう。

なんで、今朝
目を覚まさなかったんだろう。

なんで、どうしたのって
一言、言ってあげられなかったんだろう。



出ていけないくらい
しがみついてればよかった。

昨日、様子がおかしいと思った時に
ちゃんと向き合ってあげてればよかった。



もし…。
あの時、ああしていれば。

もっと違った未来が
待ってたかもしれないのに。



次から次に押し寄せてくる
溺れそうな程の、後悔の波に。

何日も、何日も。


智のニオイが微かに残るベッドの中で
声が枯れるくらい泣いて。



なんとか
仕事にだけは行けるようになっても。

後は、ずっと
部屋の中に引きこもって。


飽きることなく

ただひたすら、泣き続けた。









智の姿を見たら
どうにかなってしまいそうで。

怖くて。
テレビは点けられなかった。



智と出会ってから
大好きになって。

毎日、毎日
何回も繰り返し聞いてた、智の歌声も。

録画してた智がゲスト出演してる
バラエティー番組も、歌番組も。

買いそろえたライブDVDだって
一切、見られなくなって。



毎日のように夢に出てくる
最後に愛してくれた智の姿ばかり追いかけて。

すぐ側に智がいない現実に
押し潰されそうだった。



そうやって。

ずっと毎日
逃げてたから。



半年後。

ようやく点けたテレビから
偶然、聞こえてきた智の歌声に。

どうしようもなく
心が震えて。



半年ぶりに聞く
大好きな歌声に。

やっぱり

一瞬で、心奪われたまま。

一ミリも

動くことなんてできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

★全5話ではなく、全6話でしたので

 明後日まで続きます…よろしくお願いします。