底知れぬ差別と偏見の国に住んで~2020.3.21『報道特集』

櫻井 智志

 神奈川県津久井やまゆり園大量殺傷事件。19人が殺された。金平茂紀キャスターは、植松聖被告に3度面会し何度も手紙のやりとりを続けた。検察の求告通り死刑の判決がくだった。金平氏は、「2か月17回の裁判で、この事件がなぜ起きたのか、被告人がおこした事件を解き明かすには全く十分ではない。なにひとつ事件の本質はあきらかになっていない」と結んだ。

 

 植松被告の言葉がいくつか明らかとなった。

「被害者の家族は、精神を病んでいる」

「トランプ大統領は勇気をもって信念を話している。生き方がかっこいい」

最後の出廷で「かっこよければすべてが手に入る」

荒唐無稽にも思える植松聖被告の言葉。だが番組は、れいわ新選組の参議院議員木村英子氏が登場し、私は衝撃を受けた。

 

木村さんは「(植松被告は)私だったかも知れないという恐怖を感じた」と語った。

「施設には小さないじめやいじわるがしょっちょうある。その究極が植松被告。」

「誰の心にでも潜んでいる」

「育てるのが精いっぱい」。木村さんは明るく元気な子どもだったが、突然の事故で転落して、くびの骨を骨折、脳に損傷を負い、車椅子生活をおくる。家族は、育てるのが精いっぱいだったという。

「うちの家族も一家心中未遂は何度もあった」

木村さんは車椅子からおち、冷たい床にずっと横たわったままで放置されたままの体験を数回体験している。介護する側の悔しさや失望感も感じてきた。

「殺して」、

虐待している側の罪悪感なども感じた。

障がい者が生きていける、当たり前の社会を作ってこなかった。

木村さんは、もしも自らが国会議員に当選して施設から出ることが遅れたら、植松聖被告のような犯罪に巻き込まれるか自分が自暴自棄になるか、どうなっていたか・・と考えた。

 

 川崎市幸区の老人介護施設で奇妙な事件が起きた。高層7階の廊下から3人の老人がわずかな期間に、同じ場所から転落して死亡した。捜査によって、施設に勤務していた青年男性職員がおこなった行為と判明した。

 

 植松被告が、やまゆり園に深夜侵入して次々に殺傷した被害者たちはみな自分への不当な犯罪に抗議の声をあげないひとびとだったという。金平キャスターは、ある事実を知る。植松被告は、つぎつぎに殺傷する時、職員に「こいつは声をあげるかあげないか?」と尋ねその応答によって攻撃実行の判別にしたという。

 

植松「僕は死にたくないんだ」

金平「津久井やまゆり園で働いていなかったら、変わっていたと思いますか」

植松「変わっていたと思う」

 

 金平氏は「この事件がなぜ起きたのか」事件は解き明かせないままで裁判は終えた。被告人の更生とは離れている。優生思想が、私たちの社会にゆきわったっている。

植松被告はこう告げたという。

「自分は、正義を実践している」

 

 犯罪は、社会を反映しているし、社会の縮図でもある。最近日本の自殺率はここ2,3年下がっている。だが日本国内を覆う閉塞感は、不定形の構図を国内に形づくっている。植松被告の事件は、精神鑑定で異常、と片づけられる問題ではない。日本社会から急速に失われつつある事態。

 この国には、高まる軍国化志向の管理主義と並走する底知れぬ差別と偏見が不気味にゆきわたりつつある。左翼、右翼をひっくるめて、緊急事態を多用してニッポン差別偏見社会というシステムが完成している。-了