直ちに影響ない、とは | 高松聡ブログ Powered by Ameba
ブログを書くのが久しぶりになってしまいました。
ごめんなさい。

また、感情を少しだけ、というかそのまま書く、という大人げないことをしてしまい、
反省しています。何かの仕事に著しく落ちこんだと書くのは広告人として失格です。

また、原発の理解のために読んでいただいている方に、原発あるいは復興の話題以外は、
不要ですよね。(原発と復興以外の話もしたいですが、していいのかな?おいおいですね)


気を取り直して、約束通り「直ちに影響はない」の徹底的解説というのをしてみますね。

たった「9文字」の「直ちに影響はない」が、日本中どころか世界中を不安にしています。
「影響はない」とポジティブなことを言っているのに、言えば言うほど、不安を煽り、
パロディーのネタにすらされている。
この不安が買いだめを助長したり、農作物に風評被害を起こしています。
(外国における日本産食品の扱いは目を覆うばかりです)


日本語の「9文字」は、なんて解釈の幅がひろく、また情報量が多いのでしょう。
この9文字を「正しく解釈」し、かつ「そこに込められた情報量」をできるだけ
ひらたく説明してみます。

「直ちに影響がない食品だらけ」になるのではないかと不安になっている方が多くいるようです。
少しでも安心していただけるといいのですが。

「直ちに影響はない」という言葉は、
「政府が本来意図している意味」と「世の中での受け取られ方」がとても乖離しています。

「直ちに影響はない」は科学的根拠に基づいた表現です。(本当です)
 字数を少し増やすと、こう言っているのです。

この○○を食べても、
「極めて短い時間経過」で「確定的影響」はない。
将来に渡っても「確定的影響」も「確率的影響」もない。
逆に言うと、「確定的影響」か「確率的影響」が「ある」と科学的に判断できる下限以下の放射線量である。

(言葉が難しいですね。物理とか統計とか思い出して、頭痛くなったらごめんなさい。ここは深く考えず、先を読んでください。あとで読み返すときっとわかります。)

このように「直ちに」理解した方はいったい何割いるでしょうか。極めて少数だと思います。
言葉を選んでいる方は知識も、知能も、日本語力も、責任回避能力も高い方なのでしょうが、
「正しく伝わる」ことの重要性と難しさを理解していないのかもしれません。

「直ちに影響はない」は科学的根拠に基づいた表現ですが、
日本語の曖昧さを回避することを「怠った」表現です。

「正しく表現する」だけではだめで、「正しく伝わる」ことに心血を注がなくてはいけないと
思います。コミュニケーションとはそういうものです。

しかし「理解する」ために長文を書かなくてはならない「9文字」なんて、
「古文」みたいですね・・・・


原発問題が起きてすぐに「直ちに影響はない」は東電、政府の「基本用語」になりました。
それは「そう表現すべきである」という行政や科学者のアドバイスがあったからです。
そうとう入念に考えた「正しい表現」です。
(一方、「正しく伝わるか」という点では完全に落第点の表現です。)

一度「正しい表現」が決まると、それ以外の表現をすることは個人レベルでは(幹事長や首相でさえ)できなくなります。

選ばれた「正しい表現」は政府、東電関係者の全員が使うことになります。

個人的な表現で「ほとんど影響はない」とか「通常は影響はない」とか
「影響がないと考えていい」と、「話してはいけない」のです。(辞職覚悟なら別です)

だって、東電は「直ちに影響はない」と答弁し、政府が「通常は影響がない」と答えたら、「その違いはなんですか」とマスコミに突っ込まれます。
あるいは「通常」とはどういう状態ですかと問われます。

「直ちに影響はない」は科学的に「間違っていない」表現の中で「理解しやすい」「平易な言葉」
として選ばれたのでしょう。

でも、「平易な言葉」なので、誤解も生みやすい。
「直ちに影響はない」ってことは「いつか影響がある」ということだよね、
というのが典型的リアクションです。

「直ちに影響はない」を最初に使うとき、政府はまず、その意味を「9文字」でなくて、
「900文字」かけても、丁寧に説明すべきだったと思います。
その完全な理解のもとなら、「直ちに」を繰り返し使ってもいいのです。

私が解説を書いてみたら900字にも収まらなかった。
正しく理解するには、曖昧さを回避するために、どうしても言葉が固くなります。今回は等に固いかも。ごめんなさい。

日本語は毎日の生活や営み、季節、味わいといった情緒を表現するのに、含みがあり、想像力が広がる素晴らしい言語です。でも、科学的なことを表現するには、普段使わない、ちょっと難しい言葉を使う必要がある言語です。言葉の意味が明解に定義できる言葉を使う必要があるのです。だから、少し辛抱してください。(辛抱できない、難しい、わからないという方はメッセージでお知らせください。簡易版を書きます。簡易版は少し粗野な論理構成になりますが)

本題です。

「直ちに影響はない」という表現は「時間経過による影響」と、「確定的影響」、「確率的影響」の
3つの「影響」を、ひとつの言葉に無理矢理しているので、本当の意味が伝わらないのだと思います。

まず「直ちに」です。

「直ちに」には「極めて短い時間経過」でという意味があります。これはすぐに理解できる。
なので「極めて短い時間経過」では「影響がない」と言っているのだなとわかります。
要は「すぐに影響はない」と。

でも、長い目で見れば「影響あるんじゃないか」と感じてしまうわけです。

ちょっと、まってください。
「直ちに」には、もう一つの意味があります。「Aをしたら『必ず』Bが起きる」という
「確定的」因果関係にあるという意味です。

デジタル大辞泉によれば、「直ちに」の意味は、

1、 直接。じかに。例文「その方法が直ちに成功につながるとは限らない」
(その方法をとれば、「直接的に」「確定的に」「必ず」成功するわけではない)
(「すぐに」、成功するとは限らないという意味ではないところに注意です)

2 時間を置かずに行動を起こすさま。すぐ。「通報を受ければ直ちに出動する」
(通報を受ければ「すぐに」出動するという意味。こちらは直感的に分かりますね)

辞書では「すぐに」が意味の2で、「必ず」の意味が1なんですね。
現代の世の中的には2をイメージする方がほとんどだと思います。

思いっきり柔らかく例えてみます。

2の意味の時間経過の「直ちに」は、
合コンに行ったら、かっこいい男の子がひとりもいなかったので、「直ちに」帰宅した。
(「すぐに」帰宅した)

1の意味の確定的因果関係の「直ちに」は、
かっこいい男の子が1人もいない合コンは「直ちに」つまらないとは限らない。
(合コンの楽しさは複合的要因で決定される。)

後者の「直ちに」は「直接的に」や「確定的に」「必ず」という言葉に置き換えられるでしょう。

政府の発言では(原発問題に限らず)、多くの場合その両方の意味を併せ持って使われているケースが多いと思います。固い表現に戻しますが、政府風の話し方の例を挙げてみますね。

「インフレが起きたからといって、「直ちに」バブルが再燃するとは言えない。」

これは、インフレが起きたとしても、「すぐに」バブルが起きる訳ではない。という意味と、インフレが起きたとしても「必ず」バブルが起きる訳ではないという2つの意味を同時に発言している例です。

そして、政府や行政は、多くの場合、その両方の意味があることを「織り込んで」、
「直ちに」を使っています。

別な例です。
支持率が25%を下回ったからといって「直ちに」首相を辞任することはない。

「すぐ」にも辞めないし、そもそも25%下回ったから「必ず」「自動的に」辞めるということは
もちろんない。と言っているのですね。

そろそろ「直ちに」が見えてきました。

1、「すぐに」ではない。
その量の放射線を被曝しても、「すぐに健康を害することはない」

2、「必ず」ではない。

その量の放射線を被曝しても、「必ず健康を害するということはない」
5年後、10年後という未来も含めてです。(ここ重要!)

3、「必ず」ではないが、もしかしたら健康を害するのでは?

「未来」の統計や、調査で「害があった」と識別できるほど被害はでない。
科学的には「有意な差が認められない」と言います。
(0.5%以上癌になる確率が上がった等の変化が起きない)

この「すぐ」「必ず」「確率的に」の3つの意味を「直ちに」から汲み取らなくてはいけないのです。

「すぐ」影響がでる「可能性」がある放射線量は、1SV(1,000,000μSV)
以上とされています。その1/4の250mSV(250,000μSV )が福島の原発で努力していただいている方の上限被爆量となっています。

基準値を超えた食品や水道の放射線量は、内部被曝を考慮に入れても、桁違いに小さな値です。
「基準値を超えた」という食物を何回か食べても、「すぐに」影響がでることは絶対にないということです。

赤ちゃん、乳幼児は特に慎重に、ということではありますが、大人の1/10としても、「すぐに」影響がでるような、深刻な放射能汚染環境に、私たちはありません。

「必ず」(未来も含めて)影響がでるのも、
「すぐに」と同様な非常に高い放射線被爆をした場合です。


でも、「すぐ」でも「必ず」でもないけど、「いつか」影響があるのではないかと心配されている方も多いと思います。あるいは「癌になる確率が上がる」のではないかと「確率的心配」をしている方も多くいると思います。

「直ちに影響はない」けど「いつか、だれかに影響がある」のではと。

このことを正確に理解するには、「確定的影響」と「確率的影響」の話を避けられません。また難しくてごめんなさい。

「確定的影響」は先ほども書いた「必ず」おきる「影響」です。
「確定的」に「影響が出る」わけです。
青酸カリを○○ミリグラム摂取すると「確定的に死亡」します。確定的致死量があるわけです。

それ以下では「死亡することもある」という「確率的影響」になります。
そして、ある程度以下に摂取量が下がると「青酸カリの摂取による直接的死亡率がゼロ」になり、
「確率的影響」もない、ということになります。
この確率的影響が起こる量の境を「しきい値」と呼んだりします。

放射線の被曝にも「確定的に死亡する量」というものがありますが、これは原子炉のすぐ近くで大事故にでも会わない限り想定できないほどの量です。

ですから放射線の健康被害のうち「確定的影響」は、私たちは考えなくていいということになります。


では「確率的影響」はどうでしょうか。
「確率的影響」とは、「一定の条件を与えた場合」に「将来に渡ってのいつか」
「健康に被害がでる(癌になる等)」「確率」が「測定できるほど」「上がる」ということです。

受動喫煙者の肺がん発生率は、非受動喫煙者に比べ30%も高くなるそうです。
しかし、かならず、肺がんになる訳でないですから、「確率的影響」が「顕著にある」というのが正しいことになりますね。(しかし30%というのはすごい数字ですね)

紫外線の日焼けは「シミ」になる確率を(何%かわりませんが)間違いなくあげ、皮膚がんになる確率も明快に上がります。ちなみに、(紫外線が強く、天候がいい、アウトドア好きな)オーストラリアの癌死亡者の最大要因は皮膚がんです。

これらの「確率的影響」が間違いなく「ある」と言えるのは、医学的、科学的研究によって、
「受動喫煙者」グループと「非受動喫煙者」グループ、あるいは「紫外線を多く浴びている」グループと「紫外線対策をしている」グループの、相当数(統計的に意味のある数)のサンプルの発癌率を、
「長期間」に渡って調査して、「明らかに確率に差がある」と認められたからです。

放射線については、様々な研究の結果、100mSV(100,000μSV)以下では「確率に差がある」ことが認められない、とされています。

統計には誤差が必ず含まれますが、サンプルを増やせば、誤差は減っていきます。逆に言えば、
どんなにサンプルを増やしても若干の誤差が残ります。

サンプル数を膨大にするには、費用も膨大になり、時間も膨大に必要です。
ですから、0.01%発癌率が上がるということを(上がらないということも)調査、統計で示すことは
事実上不可能なのです。

発癌率の場合0.5%以上、確率が上昇するようなら始めて「確率的影響」があるとしているようです。
それ以下の数字では、統計的誤差なのか、発癌率が実際に高まったのか判別できないということです。

厳密に言うと、0.2%確率上昇があるのかもしれないが、それは、調査上判明しない低い数字だし、仮に本当に0.2%の確率上昇があったとしても、他の生活習慣、生活環境から受ける悪い影響(飲酒、
塩分過多、睡眠不足等で、発癌率はその何倍も上がります)に比べると、無視してもかまわないほど
小さな影響である、ということになります。

そして発癌率が0.5%程度上昇し始めるとされているのが100mSV(100,000μSV)ということです。

以上まとめると、

食べても、飲んでも、吸っても「直ちに影響がない」と発表されたときは、
こう理解しましょう。

1、「すぐに」健康被害はない。
2、 未来を含めても「必ず」起きる健康被害はない。(確定的影響はない)
3、 未来に健康被害が起きる「確率」は測定できないほど低い。(確率的影響はない)
4、 測定できないほど低い確率の健康被害を、気にするならば、あらゆる健康に害のある生活習慣を変
   える方が効果的である。


0.5%以下の発癌率上昇を、不安に毎日過ごすぐらいなら、塩分の撮り過ぎを気にしましょう。
アルコールも程々にして、休肝日を作りましょう。睡眠をきちんと取りましょう。
遥かに発癌率を低くする効果があります。

小さなお子さんがいるお母さん。
安全を見て、大人の1/10の基準で考えましょう。
それでも、いまのスーパーで売っているものはどれも大丈夫です。

見えないから怖いのはわかります。
たくさん浴びると発癌率が上がるのも確かです。
でも、紫外線もそうです。X線もそうです。
放射線も、紫外線も、X線も、すべて程度問題です。

日本製の食品が、産地を問わず、放射線の測定もせず、すべて輸入して
もらえなくなってきています。

日本人が怖がって食べないような状況では、外国で買ってくれるはずがありません。
日本製品全般に及ぶ風評被害が長引くと、日本経済が壊滅します。
私たちは「風評被害の輸出」をしてはいけません。

政府の「対応策」や「コミュニケーション」には大いに問題があると思います。
ですが、「嘘」を言って国民を騙す理由はありません。

「直ちに問題はない」は、今日お話した意味において、科学的に正しいと信じてあげてください。

情報を正しく理解すれば、「私たち」は「報道」よりも真実に近づける。
それを怠れば、「報道」に翻弄される。

平時ではない、有事である社会にとって、「真実」を知ろうとする努力は何にもまして重要なのではないかと思います。




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