掌編小説 「一筋の光明」 第二話 | イガラシ ソウル

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先日のことだ、同じボクシングジムに通う三十六歳の三崎さんという、少し前に、プロライセンスを取得したばかりの、4回戦の先輩がこう言ってきた。
「剛、お前、オレと似てるな。オレの十七歳の頃も、お前と同じ目をしていたよ」
と。僕は三崎さんが言わんとすることが、よく分からなかった。
三崎さんは続ける。
「オレはな、お前みたいに勇気がなくて、心の中では大人に反抗しながらも、表面的には従っていた。
そして、大学を出て、就職し、大人しく社会の枠に収まった」
興味を示し始めた僕を、更に惹きつけるかのように、三崎さんは続ける。
「でもな、ずっと燻っていた。オレは小さい頃から辰吉丈一郎さんに憧れててな、いつかボクシングをやりたい、ボクシングで世界チャンピオンになるんだ、そう思ってきた。
そう思い続けてきたが、怖かったんだ。食えなくなることも、社会の枠からはみ出すことも」
三崎さんは、恥ずかしそうにして、さらに続けた。
「そう思い続けてきて、ボクシングを始めたのが三十五歳だから笑えるだろ。
中年のオヤジがダイエットの為に来たようなものだと、会長は最初、思ったらしい。でもオレは言ったんだ、プロになりたいって、プロとして一度でも良いからリングに上がりたいって。
正直、オレは笑われると思ったよ。でも会長は、本気でやる気はあるのかと訊いただけで、あとは何も訊かずに、オレをこうしてプロに育ててくれた。会長も今のお前と同じ目をしていたよ」
そして、最後に言った。
「剛、お前はオレのようになるなよ、自分で道を拓け、自分の人生を生きろ」
と。僕は三崎さんが好きだ、僕も三崎さんが言ったように、世の中に生きにくさを感じている。