ディエゴ・ベラスケス作『青いドレスのマルガリータ・テレサ』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
 
ファン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ作『緑のドレスのマルガリータ・テレサ』(ブタベスト国立西洋美術館蔵)
 
 
皆様、お今晩は。来年の1月26日迄、上野の国立西洋美術館にて開催されている「日本・オーストリア友好150周年記念 ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史」に行って参りました。

13世紀後半にオーストリアに進出後、同地を拠点に勢力を拡大し、広大な帝国を築き上げたハプスブルク家。15世紀以降は神聖ローマ皇帝の位を独占し、同家がオーストリア系とスペイン系に系統分化した16-17世紀には、後者がアジアやアフリカ、南アメリカにも領土を有したことにより、まさに「日の沈むことのない帝国」となります。ナポレオン戦争を引き金とした神聖ローマ帝国の解体後は、オーストリア帝国(1867年にオーストリア=ハンガリー二重帝国に改組、~1918年)を統治しました。数世紀にわたって広大な領土と多様な民族を支配し続けた同家は、まさに欧州随一の名門と言えるでしょう。
ハプスブルク家の人々はまた、豊かな財とネットワークを生かして、質量ともに世界屈指のコレクションを築いたことでも知られます。このうちオーストリアを拠点とし続けた同家本流による収集品の主要部分は、オーストリア=ハンガリー二重帝国「最後の皇帝」ことフランツ・ヨーゼフ1世肝煎りで1891年に開館したウィーン美術史美術館の礎となりました。オーストリアと日本の国交樹立150周年を記念する本展では、同館の協力のもと、絵画、版画、工芸品、タペストリー、武具など100点、5章7 セクションによって、そのコレクションをご紹介します。個性豊かなハプスブルク家の人々や、当時の宮廷生活の紹介も行いつつ、時代ごとに収集の特色やコレクションに向けられたまなざしのあり方を浮き彫りにしていきます。数世紀にわたってヨーロッパの中心に君臨した、帝室ならではの華麗なるコレクションの世界をご堪能いただければ幸いです。
 
ディエゴ・ベラスケス作『スペイン国王フェリペ四世の肖像』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
ディエゴ・ベラスケス作『スペイン王妃イザベルの肖像』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
 
 
ディエゴ・ベラスケス作『宿屋のふたりの男と少女』(ブタペスト国立西洋美術館蔵)
 
現在、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて「建国300年 ヨーロッパの宝石箱 リヒテンシュタイン侯爵家の至宝展」が12月23日迄開催中ですが、銀座線で挟んで親分筋と子分の展覧会が同時に観れるのって中々ありそうで無いものです。第一次世界大戦によって実質上の権力も財力も失ったハプスブルグ家と小国ながら巧みに生き残っているリヒテンシュタイン家の運命を考えると感慨深いものがありますが、しかし、虎は死んでも皮は残すとの諺がある通り、ウィーン美術史美術館ブタベスト国立西洋美術館の双方に膨大な御宝が現在も遺されております。
 
『ハート型の容器』(ウィーン美術史美術館 美術工芸館蔵)
 
 
『角杯(グリフィンの鉤爪)』(ウィーン美術史美術館 美術工芸館蔵)
 
 
 
アントニオ・スジーニ・ジャンポローニャ作『ケンタウロスのエウリリュティオンを打ち倒すヘラクレス』(ウイーン美術史美術館 美術工芸館蔵)
 
 
 
今回のコレクションは絵画のみではなく、甲冑やタペストリーや各種装飾品に至るまで多岐に渡るものでありますが、リヒテンシュタイン展が絵画よりは磁器の展示物が優位でしたが、ハプスブルグ展ではメインはあくまでも絵画であります。特筆すべきなのがスペインが生んだ最高の画家の一人であるディエゴ・ベラスケス師の作品がウィーン3点ブタベスト1点なのと、ベラスケス師の絶筆である『青いドレスのマルガリータ・テレサ』の横にベラスケス師のお弟子さんであるファン・バウティスタ・マルティネス・デル・マーソ作による『緑のドレスのマルガリータ・テレサ』像が並んでいた事。今迄単品で『青いドレスのマルガリータ・テレサ』は度々来日されておりますが、二枚揃うのは自分の知る限り絶無でして「こんな作品があったんだ?!」と仰天しかかったのであります。
 
ジョルジュオーネ作『青年の肖像』(ブタペスト国立西洋美術館蔵)
 
 
 
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作『ベネデット・ヴァルキの肖像』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
 
ティントレット作『甲冑をつけた男性の肖像』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
 
 
アンドレア・マンテーニャ作『イサクの犠牲』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
それと絵画なんですが、ヴェネツィア派の画家の作品の一流どころが勢ぞろいでしてブタベスト国立西洋美術館からあのジョルジュオーネ作『青年の肖像』や画家の王ティツィアーノ・ヴェチェッリオ作『ベネデット・ヴァルキの肖像』、そしてティントレット作『甲冑をつけた男性の肖像』と豪華なラインナップ。
 
アルブレヒト・デューラー作『ヨハネス・クレーベルガーの肖像』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
 
 
 
ヤン・ブリューゲル(父)作『堕罪の場面のある楽園の風景』(ブタペスト国立西洋美術館蔵)
 
 
 
 
レンブラント・ハルメンスソーン・ファン・レイン作『使徒パウロ』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
北方絵画も充実していてアルブレヒト・デューラー作『ヨハネス・クレーベルガーの肖像』、ヤン・ブリューゲル(父)作『堕罪の場面のある楽園の風景』、そしてあのレンブラント・ハルメンスソーン・ファン・レイン作『使徒パウロ』迄もがあるって凄くない?と唸ってしまったのであります。
 
 
ヨーゼフ・ハインツ(父)作『神聖ローマ皇帝ルドルフ2世( 1552–1612)の肖像 』 (ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
マルティン・ファン・メイテンス(子)作『皇妃マリア・テレジアの肖像』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
マリー・ルイーズ・エリザベト・ヴィジェ=ルブラン作『フランス王妃マリー・アントワネットの肖像』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
ヨーゼフ・ホラチェク作『薄い青のドレスの皇妃エリザベト』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
 
 
 
ヴィクトール・シュタウファー作『オーストリア=ハンガリー二重帝国フランツ・ヨーゼフ一世の肖像』(ウィーン美術史美術館蔵)
 
一族の肖像画もマクシミリアン1世から最後の皇帝であった「苦労人」のフランツ・ヨーゼフ1世まで勢揃い。世間の風当たりは冷たいけれども自分が断固として好きなのが首都をウィーンからプラハに移してしまったルドルフ二世なんですが、彼の統治下では「戦争だけは起こさなかった」事を強く申し上げたいのであります。
 
 
全部で百点程の展示を観て、上の常設展示を観ても「国立西洋美術館」もかなりイイ線行ってきたなぁと思ったりするのでありました。勿論本家に行けば比べ物に為らないことは十も百も承知ですが、戦後の日本でコツコツと積み重ねてきたコレクションが数百年後にはと想像するとちょっとは愉しい気分になるのでありました。