昔の僕は、
沈黙が苦手でした。
商談でも。
会議でも。
初対面の人との食事でも。
会話が一瞬止まると、
妙に落ち着かない。
「何か話さないと。」
そう思ってしまう。
だから質問する。
話題を探す。
相手の表情を見る。
反応が薄ければ、
別の話をする。
今思えば、
会話をしていたというより、
ずっと相手を観察していたんだと思います。
退屈していないか。
怒っていないか。
変なことを言っていないか。
自分はちゃんと、
「感じのいい人」でいられているか。
たった数秒の沈黙なのに、
身体の中では、
ずっと何かが動いていました。
ある夜。
出張先で、
一人でバーに入りました。
ホテルへ戻って寝てもよかったんですが、
なんとなく、
もう少しだけ一人でいたかった。
カウンターに座る。
マスターが、
静かにグラスを置く。
少し話しました。
仕事のこと。
出張のこと。
その街のこと。
でも、
しばらくすると会話が止まりました。
沈黙。
昔の僕なら、
ここで何か話していたと思います。
ところが、
マスターは何も言わない。
グラスを拭いている。
僕の方を見て、
話題を振るわけでもない。
気まずそうにもしない。
ただ、
そこにいる。
10秒。
20秒。
たぶん、
それくらいだったと思います。
でも僕には、
妙に長く感じました。
そして、
不思議なことに気付きました。
この人、
沈黙を「問題」だと思ってないんだ。
しばらくすると、
マスターが一言だけ話しました。
そこから、
また少し会話が始まる。
そして、
また静かになる。
それでいい。
誰も困っていない。
僕はその夜、
初めて少しだけ、
会話には何も起きていない時間があってもいいんだと思いました。
でも。
この話は、
「沈黙を恐れないメンタルを持とう」
という話ではありません。
むしろ、
後になって僕が気になったのは、
別のことでした。
なぜ僕は、
たった数秒の沈黙に、
あれほど反応していたんだろう。
思い返してみると、
沈黙だけじゃありませんでした。
上司の顔が少し曇る。
気になる。
取引先から返信が来ない。
気になる。
会議の空気が変わる。
気になる。
妻の返事がいつもより短い。
気になる。
相手の声。
顔。
間。
空気。
僕は、
ものすごくよく見ていました。
それを、
「空気が読める」
と思っていた時期もあります。
仕事では、
役に立つこともありました。
相手が求めていることを先回りする。
問題が起きる前に動く。
上司が言う前に準備する。
会社員としては、
便利な能力だったと思います。
でも。
一日中それをやっていたら、
そりゃ疲れます。
会社から帰っても、
終わらない。
家族の機嫌を見る。
スマホの通知を見る。
明日の予定を見る。
自分の周りで、
何か問題が起きていないか。
ずっと確認している。
何も起きていない時ですら、
次に何か起きることに備えている。
それなのに当時の僕は、
疲れてくると、
また自分を責めました。
「最近、余裕がないな。」
「もっと器を大きくしないと。」
「いちいち気にしない人間にならないと。」
また、
マインドで何とかしようとする。
でも。
「気にするな」
と思っている時点で、
もう気にしている。
頭では大丈夫だと思っていても、
身体は先に反応している。
僕の場合、
そこがずっと置き去りでした。
ある時期から、
その反応が以前より強くなっていきました。
昔なら流せた一言が、
妙に残る。
ちょっとした空気の変化で、
ドッと疲れる。
人と長く話した日は、
一人になりたくなる。
休日になっても、
完全には力が抜けない。
それでも僕は、
コミュニケーション能力の問題だと思っていたんです。
もっと堂々としよう。
もっと自信を持とう。
他人に振り回されないようにしよう。
でも、
それだけではどうにもならなかった。
僕の場合は、
「何を考えるか」の前に、
もっと手前を見る必要がありました。
普段、
自分はどんな状態で過ごしているのか。
朝から身体は重くないか。
食事はどうしているか。
仕事中、
ずっと力が入っていないか。
家に帰ったあと、
ちゃんと仕事から離れられているか。
眠る直前まで、
頭を動かしていないか。
僕は長い間、
身体のことは身体、
仕事のことは仕事、
メンタルのことはメンタル、
全部別々だと思っていました。
だから、
仕事で苦しければ仕事術。
人間関係で苦しければ考え方。
疲れれば休む。
そうやって、
その場その場で何とかしていた。
でも、
自分自身は一人です。
仕事をしているのも。
人と話しているのも。
家族と過ごしているのも。
全部、
同じ自分だった。
そこをもっと手前から見直すようになって、
僕の中では少しずつ変化が出てきました。
今でも、
人の表情は見ます。
空気も読みます。
仕事なら、
必要なこともある。
でも、
昔ほど一つ一つに持っていかれなくなりました。
何より、
沈黙を急いで埋めなくなった。
相手が黙っている。
僕も黙っている。
それで、
身体の中までザワザワしない。
この違いは、
僕にとってかなり大きかった。
会話術を覚えたわけじゃありません。
「沈黙を楽しもう」
と自己暗示をかけたわけでもない。
もっと土台のところから、
日々の自分との付き合い方を見直していった。
その先に、
結果としてこういう変化があった。
僕の感覚では、
そちらの方が近いです。
そして今回、
この話を書いたのには理由があります。
僕が以前から紹介している無料メルマガを読んで、
変わったことを一つ挙げろと言われたら、
昔の僕なら、
「仕事が楽になった」
みたいなことを答えたかもしれません。
でも今なら、
もっと小さなことを挙げます。
何も起きていない時間を、怖がらなくなった。
僕にとっては、
こっちの方が大きかった。
人といても、
一人でも。
休日でも。
仕事が終わった夜でも。
ずっと何かに備えていなくていい時間が、
少しずつ戻ってきた。
最初は僕も、
このメルマガをただ読む側でした。
今は縁があって、
僕自身も運営に関わっています。
だから、
紹介する側の人間であることは隠しません。
ただ、
「登録してください」と押すつもりもありません。
今の毎日で特に困っていないなら、
そのままでいいと思います。
でも。
人と話すだけで妙に疲れる。
相手の反応がずっと気になる。
仕事が終わっても力が抜けない。
昔なら流せたことまで、
最近は身体に残る気がする。
それでも、
「もっとメンタルを強くしなきゃ」
と考えているなら。
僕なら一度、
その結論を保留にします。
もしかすると、
見る場所はそこだけじゃないから。
無料なので、
違うと思えば閉じればいい。
ただ、
ずっと気を張って生きる以外の感覚を知りたいなら、
読んでおいてもいいと思います。
僕自身、
あのバーでしか味わえなかったような「静かな時間」が、
少しずつ日常にも戻ってきたので。
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