― 大宮妄想小説です ―
いつも以上に慌ただしく仕事をこなし、気づけばあっという間に昼を過ぎていた
「…キリのいい所で休憩させてもらおう」
俺は一度 大きく伸びをした
カズは今頃どうしているだろう…
まだ寝てるだろうか…
ふたり並んで手を繋いで歩き
その温もりさえ 離れるのを惜しむように
指を絡めあった
「今日はバイト遅くなりそうなんだ…」
「…そっか…じゃあ…」
「…公園じゃなくて、ファミレスで会う?」
「え…うん!」
カズが嬉しそうに笑った
「カズ、えっと…体、大丈夫?」
「だ…大丈夫、だよ…」
「…うん」
重なる視線がなんだか擽ったくて
ふたりで笑いあう
「俺は帰って寝てればいいんだから、今から仕事行く大野さんの方が大変だよ」
「…大学には行く気ないの?」
「…ないよ。あんな勝手に決められた所…」
「カズ、でも…」
「もういいったら。
俺は…大野さんが居ればそれでいい…
大野さんの事だけ考えて、逢うのを待ってるだけで…
それだけでいい…」
そう言って微笑むカズを見て、俺は少しだけ不安になった
俺もカズと離れたくないし
ずっと側に居たい
でも…
カズは俺だけを想って
俺を待つことだけに時間を使って
それが全てになってしまっていいんだろうか…
「……」
俺はカズを見つめた
カズも見つめ返すと、俺に抱きついた
そして顔を俺の服に埋める
「……」
「…カズ?」
「…大野さんの匂いがする」
顔を埋めたまま、くぐもった声が聞こえる
「匂い?…なんか俺 匂いする?」
「うん」
「どんな?」
「…大野さんの匂い」
「ふふ、わかんないよ。
でも、カズはいい匂いがするよ」
「俺?どんな?」
カズが顔を上げた
「カズの匂い」
「…わかんないよ」
「ふふ」
「俺さ、大野さんの匂い大好き…
優しくて あったかい匂い。
雨の匂いはわかんないけど、大野さんの匂いなら 俺すぐにわかるよ…」
「カズ…」
俺もカズを抱きしめる
「でも…きっと今は混ざっちゃってるんじゃないかな」
「え…あ…」
カズの耳がみるみる赤くなって、俺はその耳に軽く口づけをした
「…ん…」
唇にカズの熱くなった体温を感じて
離れてしまうのを拒む気持ちを抑えながら別れた
「じゃあ、また後でね…」
「…うん…また後で」
照れ笑いしながら
そんな言葉が これからもずっと
永遠に繰り返されればいいと思いながら…
先の未来なんてわからないけれど
ゆっくりと時間の流れる中で
いつかカズにも夢が見つかるだろう
だけど…
その夢を見つける為に
俺が側に居る事が妨げにならないだろうか
― 俺も一緒に行きたい…大野さんと―
俺は これからもずっとカズの隣で
カズの微笑む顔を見ていたいけれど
それはカズにとって本当に…
「……」
「大野くん」
俺を呼ぶ声にハッとして後ろを向いた
「あ…お疲れ様です」
「お疲れ様。お昼まだでしょ?休憩してきていいよ?」
「はい、ここだけ終わらせたら休憩します」
「ごめんね、△△くんが辞めた分、大野くんが2人分の仕事してくれてるんでしょ?
他の子たち手際が悪いから…」
「そんなんじゃないですよ。
でも、△△さん凄く頑張ってたのに…残念ですね」
「うん、まぁ家の事情だから仕方ないけどね」
「…そうですね」
「それでね、大野くんに話があるんだけど」
「なんですか?」
「△△くん、来月からうちの関連会社に行く事になってたんだけど…」
「あぁ、海外の会社ですよね?
△△さん凄く嬉しそうに話してたのに…」
「うん…それでね、急いで別の人決めなきゃ行けなくなったんだけど…大野くん、どうかな?」
「…え?」
俺は一瞬、言葉の意味が理解出来ずに見返した
「でも…選ばれるのって社員の人ですよね?
それに、△△さんみたいに何年も働いて 有能な人が選ばれるんじゃ…
俺…僕はただのバイトだし…」
「普通はね。でも大野くんの仕事ぶりを今まで見てきて、是非大野くんに行って貰いたいなぁと思って。
ほら この前さ、若手のアーティスト達の展示会した時に 大野くん入口の硝子に即興で絵を描いたでしょ?」
「あぁ…あれは…
なんかここ寂しいですねって言ったら、何か飾りつけといてって言われたので、即興で絵を描いたんですけど…」
「あれ実はね、誰の作品ですかって問い合わせが結構あってね」
「…そうだったんですか?」
「うん、私も見たけど あれかなり良かったよ!」
「…ありがとう…ございます」
「向こうに行けばさ、ここよりもっとアーティストの人や作品に間近に触れる事が出来るし、いい勉強にもなると思うよ?」
「それは…もちろん」
「大野くんは画家になりたいんだよね?
今までも うちから海外の会社に移って、そのまま画家として向こうで活躍してる人もいるし」
「はい…聞いてます」
「どうかな?」
「え…と…」
「あぁ、まぁ急な話だよね」
「…はい」
「それに1年更新だから、暫くは帰って来れないしね」
「1年…」
「でも時間がなくて早く決めなきゃいけなくて…
大野くんにとってもいい話だと思うから、2、3日中に返事くれないかな?」
「…はい、わかりました」
「うん、いい返事待ってるよ!それじゃあ」
「……」
俺は暫くぼう然としてその場を動けなかった
そして
カズの顔だけが思い浮かんでいた
☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*
思っていた以上に仕事が忙しく
急いで改札を抜けると ファミレスまでの道を走った
きっとカズはもう来てるだろう
でも…
入り口で立ち止まり、ドアを開ける手が躊躇った
カズに話したら、なんて言うだろう…
来月から 最低でも1年
ずっと思い描いていた夢が、急に現実となって
今 俺の目の前にあるけれど…
考えが纏まらないまま、俺は店内へと入った
店のフロアを見渡したが
カズの姿はなかった
一瞬ほっとした気持ちと、寂しい気持ちが入り交じる
とりあえず席に座り、ドリンクバーを頼んで珈琲を入れてくると、カズを待ちながら珈琲を一口啜った
カズ、遅いな…
もしかして 帰ったって事ないよな…
それとも、やっぱり体がキツくて来られないんじゃ…
そんな事を考えていた時
「大野くん、ですよね?」
声を掛けられ見上げると
1人の見知らぬ男性が立っていた