― 大宮妄想小説です ―













握り締めていたペンを置き、深く息を吐いた

息が焼けるように熱い

腰掛けていたイスから立ち上がろうとしたけれど
思うように力が入らず崩れ落ちた

「……」

テーブルから、手に当たったスケッチブックが床に落ちる

開いている絵を見つめてから、ポケットに手を入れた

「…そっか…」

スケッチブックを閉じて掴むと、ゆっくりと起き上がる

まだ…

もう少しだけ

俺に時間があるなら

フロアーを抜け、ロビーに出た俺は
公衆電話の前で立ち止まった

受話器を手に取ったが、そこでまた力が入らず崩れ落ちる

「っ!!」

背中を貫くような激痛は全身にも駆け巡り、意識を保つことさえ限界にきていた

それでも…

震える手で落ちて揺れる受話器を掴むと 必死に起き上がり、よく知る番号を押す

もう一度だけ

声が聴けたなら…

コール音が数回聞こえてから電話が繋がった

『 …大野…さん? 』

「……」

耳に受話器を押し当てる

『 もしもし…?…大野さん、なの…? 』

カズの震える声

また 泣いてるのかな…

「…カズ」

『 大野さん!!今何処!? 』

「…ごめん」

『 大……今、何処に居るの?
…お願…大野さ… 』

「…ミュージアム」

『 なん、で…
わかった、ミュージアムだね! 』

カズが側に居る誰かにミュージアムに向かうように告げ
サイレンの大きな音が受話器から聞こえてきた

『 大野さん!すぐ行くから待ってて! 』

「…良かった」

『 …え?』

「ちゃんと怪我…診てもらった?」

『 何言って!!……なん…
なんで…ミュージアムなんか…』

「ごめん…2人で…一緒に行こうって…言ってたのに…」

『…もう、行かない 』

「…え?」

『 もう…2人でなんて見なくていい…
2人で個展の開催なんてしなくていい…
みんなが…沢山の人が大野さんの絵を見に来るのを
一緒に見たい…』

「…カズ」

『もう…わがままな事言わないから…
大野さん、と離れててもいいから…
だから…だから… 』

「カズ…俺……うっ!!」

その時、激痛がまた襲って手から受話器が離れた
その痛みは
背中からなのか
胸の傷からなのか
もうわからないけれど…

大野さん!!大野さん!!

「……」

揺れる受話器が霞んでいる

もう、息をするのも苦しい

でも、俺は

最後に…

遠くからサイレンの音が聞こえてきた

「……」

スケッチブックを強く握りしめ、受話器に手を伸ばす

「…カズ」

『 大野さん!!もうすぐ着くって!!
…だから……』

「カズ…ごめんね」

『 なん、で…謝るんだよ』

「俺…カズを…泣かせてばっかりだな…
…あの時も…」

『 あの…時…?』

「あの時は失敗したけど…
今度は…今度こそ…ちゃんと…」

『 大野さん?…大野さん!?』

今度こそ…

カズをもう

悲しませないように

苦しませないように

『 大野さん!…返事してよ…
…お願……大野さ…』

力の抜け落ちかけた手で

愛おしい声の聴こえてくる受話器を握り締める

そして

「…愛してる…和也…」



目の前が真っ暗になったと思った瞬間

甘い香りがした

それは 噎せ返るほどの あの甘い香り

そして俺は

水の中を漂っている

どこまでも深くて暗い

海の中

神様なんていないのかもしれないけれど

もう一度だけ…

あの時の願いは叶わなかったけど

今度こそ

願いが叶うことを祈った