1ラウンド1分40秒、左ボディから右の返えし振った最中、ネリの左フックカウンターが井上の顎先をジャストミート、井上はキャンバスに倒された。普通はこれでカウントアウトというドンピシャのタイミングだった。しかし井上はすぐさま立膝となりカウントエイトを待って立ち上がる。ここからがクライマックスであった。下がる井上、追うネリ。ここでフィニッシュブローである左ロングフックをネリは強振。またしても、普通は、これを被弾し、ジ・エンド。であるはずだ、が、井上は、ダッキングでこれをかわす。その後の強振もスウェーバックで、ダッキングで、ブロッキングで、全てをかわした。稀代のパンチャー二人の命運を分けたもの。それがこの、ディフェンス・テクニックに他ならない。攻撃が最大の防御であるネリは、稀代のパンチャーのハードパンチによって削られる。2ラウンドは左スマッシュで。5ラウンドは左フックで。

 そして、6ラウンド、1分22秒。井上の右ダブルがネリを捉えると、糸が切れた操り人形と化したネリがロープ際にゴトリと落ち激戦は結した。ロープ際でなかったら、ネリのダメージは甚大なものになっていたであろう。

 ネリはこれまで、KO負けはフェザー級のベルトを戴冠したフィゲロアのみ。井上もこれまでダウン経験は皆無。88%対77%のKO率を誇る両者のミックスアップは、88%の井上尚弥に凱歌は上がった。