あなたがお腹のなかにいたころ
わたしは
お腹のなかで動きまわるあなたが
あまりにもいとおしくて


できることならこのままずっと
お腹のなかにとどめておきたいと思った

 

生まれてきたあなたを
はじめて腕のなかに抱いたとき
わたしは
その小ささ温かさにじかに触れ


できることならその瞬間のまま
永遠にとどめておきたいと思った

 

親の心子知らずとはよく言ったもので
だれかなにかを
こんなにもいとおしく大切に思うきもちを
わたしは親になる今日まで
抱いたことはなかった

 

いま あなたの世界は
わたしの用意する環境
わたしの与えるおっぱい
それがすべてでしょう

 

しかしきっと
そう遠くない将来に
あなたはわたしの知らない世界を持ち
じぶんの興味や好奇心のまま
親であるわたしから
どんどんかけ離れた存在になっていくのだろう

 

わたしはあなたを
お腹のなかにも
腕のなかにも
とどめておくことはできない

 

わたしにできることは
あなたに
この世界を生きていくための
健康なからだに
ほんの少しの知識と判断力
たくさんの勇気と愛を
自身の背中で 伝えていくことだけ

 

そうしていつかあなたが自立して
いのちをつなぎ
親になったとき


いまのわたしが
あなたに向ける
このまなざしとぬくもりを
ほんの少しでも
振り返ってくれることがあったなら…

 

あなたのなかにすでにある人格を認め
じぶん自身の限度を認め
多くを語りすぎず
支配しようとせず
あなたの声に耳をかたむける
こころの余裕と寛大さを
持ちつづけることができますように

 

生まれてきてくれて
ありがとう