金森得水「梅が香」の歌 (北野奉納梅百首」より。

二十二 左衣か邊利 雪者ふ連登母 雲米可香者
    は留能毛乃斗庭 ま起禮し毛勢受

  (さえかへり ゆきはふれども うめがかは 
   はるのものとて まぎれしもせず)

   「さえかえり」冴え返る。「広辞苑」
         寒さがぶりかえる。

    寒さがぶり返り、雪が降ってきた。
    梅の香りは、春のものであるから、

   紛れることもない。

十八 雲米の花 香己楚斗伎氣度 久連奈為能 
   故そ免乃色序 見川遍か利介留

   (うめのはな かこそときけど くれないの 
    こそめのいろぞ みつべかりける)

    「こぞめ」濃染。色濃く染めること。

    梅の花は、香りが一番と聞いているが、
   濃染めの色は、また見るべきものがある。

    特に、雪(純白)が積った枝と、濃い染めの
   梅の色は、よく映るのでしょう。

    お洒落な日本画を鑑賞しているような、
   鮮やかな彩が感じられます。

二十九 烏米逎者南 誰可世能春迩 由る佐連天
    久連奈為ふかく 左支爾保布良無

   (うめのはな たがよのはるに ゆるされて
    くれないふかく さきにほふらむ)

    「たがよ」誰がよ。(広辞苑)
         誰がなかせるのかの意。
         赤子がなくのをあやめる語。

    「ゆるす」許す。(広辞苑)
         引き締める。ゆるやかにする。
             差支えないとみとめる。
          あるものごとにあたいすると認められる。

     梅の花が、赤子をあやめると認められ、
     紅色(くれない)深く、咲き匂っている。

三十  埋火能 寸美さしそ邊庭  末ち王備之
    古故路毛者留乃 迩半能う免可香

   (うずみびの すみさしそへて まちわびし
    こころもはるの にはのうめがか)

    「まちわびし」待ち侘びし。「広辞苑」
          待ちあぐんでいる。待ちわびた様子。

    埋火に墨を指し添えて、待ちあぐんでいる。
    庭の梅の香りに、心までも春が来た感じがする。

三十一 作奇企所布 曳駄古そあら免 梅能花
    左毛以左麻新吉 色香那里家利

   (さききそふ えだこそあらめ うめのはな
    さもいさましき いろかなりけり)

    梅の花が、それぞれの枝で、咲き競っている。
    いかにも、勇ましい色香であることよ。

十二 有米賀佳乎 志流便爾伊利天 丹途努禮者
   餘所尓ふき由久 左と能春可世

  (うめがかを しるべにいりて たずぬれば
   よそにふきゆく さとのはるかぜ)

   梅の香りをたよりにして、訪れた。
   他所で、里の春風が吹いている。

三十三 谷川逎 おく尓母花や 咲ぬらむ
    かけ比能水毛 う免可香存珠留

   (たにがわの おくにもはなや さきぬらむ 
    かけひのみずも うめがかぞする)

    谷川の更に奥まで、花は咲いてきた。
    筧から流れる水からも、梅の香りが漂ってくる。

四十八 不句可是能 左所ふ末に滿尓 登免く荒伐
    去年見し宿能 花爾序あ李介る

   (ふくかぜの さそふまにまに とめくれば
    こぞみしやどの はなにぞありける)

    吹いてくる風の誘うままに、足を止まった。
    去年、泊まった宿の梅の花であった。

四十九 春風乃 左所布香能ミ屋 多頭ぬ良む
    う免さく宿越 人乃訪ひ己ぬ

   (はるかぜの さそふかのみや たづぬらむ
    うめさくやどを ひとのとひこぬ)

    春風の誘う香につられ尋ねた。
    梅の咲く宿に、人は訪れない。

 五十一 か李所免耳 立与流宿能 雲米乃者奈
     王連滿ちか本能 以路香奈理介利

   (かりそめに たちよるやどの うめのはな
    われまちがほの いろかなりけり)

   「かりそめに」仮初め。(広辞苑」
            一時の事。その時限り。
           ふとしたこと。かろかろしい。

    たまたま立ち寄った宿。    
    まるで自分を待っていたように、梅の花が

   色香を放ってくれる。
 
五十二 由伎須郡流 加き祢乃梅遠 由ふ月能 
    乎し邊顔尓毛 影序さしけ留

   (ゆきすぐる かきねのうめを ゆふづきの  
    おしへがおにも かげぞさしける)

    行き過ぎてしまう、垣根の梅を、
    夕月が教えるように影をさしてくれる。。

五十三 曳布通支用 吉容企佐坐連乃 や李水尓
    宇加遍流影毛 尓本不梅我香

   (ゆふづきよ きよきさざれの やりみずに
    うかべるかげも にほふうめがか)

     夕月の夜。清い細石(さざれいし)に
    やった水に浮かぶ影にも匂う梅が香。
    
五十四 や李美頭尓 う川良ふ有米越 ミ登里子能 
     只あ留母能と 越連度遠理衣受

    (やりみづに うつろふうめを みどりごの
    ただあるものと をれどおりえず)

    [やりみず」遣る。(広辞苑)
     植え込みにやった水に、移ろっていく梅。
     幼子は、普通にあるものと思って、

    折ろうとするが、折れない。

六十  月夜爾半 影多尓香遠流 う免能花
    庭尓茂以てし ふむ遠以登ひ天

   (つきよには かげだにかをる うめのはな
    にわにもいでじ ふむをいとひて)

     月夜には、影でさえも梅の香りがする。
     その影を踏むのを気遣って、庭にも

    出ないでいる。

 「金森得水」(かなもりとくすい)

 江戸時代、紀州藩田丸領久野家家老として、
藩の財政立て直し、農地開墾、産業振興等に

尽力しました。

 傍ら、表千家から、的伝を受け、
北は、亀山から伊勢まで、多くの茶人を

指導しました。また。

 歌人としても優れ、、「那智山瀧歌百首」
「北野奉納梅百首」「艸人木百首」「冨士百首」

「茶器物名漫吟五十首」など、多くの和歌を
遺しました。

 慶応元年(1865)80歳没。

 表千家十代吸江斎宗左に就いて茶を学び、
伝授を受けました

 同門に、京都三井家・三井高福等がいます。

 得水は茶道具も自ら作成し、茶筌等、
今も珍重され、茶人に愛でられています。

 また、玉城町田丸には、得水が造った
住居兼茶室「玄甲舎」が町文化財に指定されて

遺されています。