名演小劇場にて鑑賞。

ウクライナのヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督最新作。とはいえ、製作されたのはこのロシア侵略に先立つ2021年。ロシアによるクリミア半島侵攻、ドンバス紛争が始まった2014年が舞台。主人公はウクライナの従軍医師。作戦中に捕らえられ、捕虜として過酷な経験をする前半、解放されて家族の元で過ごす後半で、かなり毛色が変わる。監督は、東部戦線で起こっていることを、ウクライナ国内も含めた世界中に知らせたいとの思いで、この映画を作ったとのこと。前半、主人公は捕虜として酷い目にあうが、後半、娘と公園で遊ぶシーンは平和そのもの。この違和感をなんとかしたいとの思いが、捕虜への拷問シーンの凄まじさに現れている。目を背けたくなるような描写だが、カメラは肉体が傷つけられ、悲鳴をあげ、死んでいく姿を冷徹に捉えている。英雄などいない。戦争での死は、全て虫けらの死と同じく無意味だ。そのことを第一に伝え、拭いがたい印象を各シーンから焼き付けてくる。優れた戦争映画とは、このような映画だと思う。