『希望のかなた』 | さとこむら手帖 -尾上さとこブログ-
映画『希望のかなた』、	
フィンランドの名匠、アキ・カウリスマキ監督の最新作。
人生のお気に入りになりそうな一本です。

今まさに世界が抱える「難民問題」のテーマを正面から捉え、鋭く切り込みながらも、

絶妙なユーモアであたたかく 包み込んでくれる作品です。

劇場内、随所で笑いも起こっていました。

 

しかし、この作品、はじまりはどこか不穏なムード。

冒頭からしばらくは、人物がでてくるのに言葉がきこえません。

人と人がいるのに、会話が無い。

そこにいる人たちは、無表情、あるいは仏頂面。

表情を失った、主人公の、シリアからの難民の青年カーリドと、

ちょっぴり孤独なしがないレストランオーナーのヴィクストロム。

新境地を探し求める二人。

二人をとりまく人たちもどこかぶっきらぼう、

だけれども、そんな彼らとのやりとりのなかで、

ようやくこの 映画からも「言葉」がうまれていきます。 

監督が心酔しているという小津安二郎作品のように

簡潔な台詞がひょいひょいと飛び交うようになると、

登場人物たちの、無愛想の奥にある愛嬌や優しさが、どんどん見えてくるのです。

話しかける言葉や、言葉 と言葉の間に生まれる絶妙な「間」の中に、

それが感じられるんですね。

 

レストランのなかで、色んな国の料理や文化が登場するシーンがあるのですが、

そこは、じわじわくる笑いたっぷり。

日本がフィーチャーされたシーンでは、

侘び寂びならぬワサビがたっぷり効いた人情劇がご覧になれますのでぜひご注目を。

 

今、この世界で、故郷を捨てなければいけない人がいること、

家族と離ればなれになってしまった人がいること、

極限の生活をしている人たちがいるということ、

国境や海を渡りながら命を落とす人たちがいること、

無差別な攻撃で 命を失う人がいること、

それを知り、個人レベルでも、出来る事を考えようと思えて来ます。 

そして、改めて、どうやって生きるかというアイデンティティの持ち方を、

登場人物たちの生き方から学ぶところがあります。