パパラギという本を読みました。パパラギとは、サモア語で白人という意味。


なぜ、この本を手に取ったかというと、先日読んだ村上春樹の、街とその不確かな壁、の作中でこの本について話されていたから。気になって中古本購入致しました。


この本が最初に出版されたのは1920年。今から100年以上前なんですね。サモアの酋長が、ヨーロッパに渡って見聞きしたことを彼の解釈で、サモアに戻った後、島の人々に聞かせた話を、ドイツ人の宣教師が本としてまとめたもの。というのが長年信じられてきたこの本の説明なのですが、街とその不確かな、、、の中では、それが実はこのドイツ人によって作られたものであった、ということが書かれてます。私が買った本は古い中古本だからか、まだサモアの酋長が語ったこと、として出版されてます。


フィクションだったとしても、本当に語られたことだったとしても、このサモアの酋長の視点には白人社会、現在の日本人にも当てはまる、主に先進国の人々の滑稽さが鋭く指摘されており、我々に向けられた哀れみの視点にはハッとさせられます。


白人たちは、非文明国に対して、文明を持ち込み人間らしく生きること開眼させ、よりよい生活を教えてあげた、と思い込んでますが、実はそうではないことの方が多いものです。でも一旦西洋化してしまったらもう後戻りは出来ませんよね。


大学時代にサモアに行ったことがあります。ニュージーランド留学中、学校の中間休みに友人と4人で行ってきました。なんでサモアだったのか。フィジーかトンガかそこら辺に行こうと思って、結果サモアになりました。


10日間くらいいたのかな。2箇所に滞在し、多分観光もしたはずなのですが、覚えているのは、起きて、泳いで、ご飯食べて、泳いで、お昼寝して、泳いで、食べて、寝て、それの繰り返しだけだったこと。砂浜の上に、高床の3人くらいが寝れる小屋がたくさんある宿泊施設で、ヤシの葉でできた屋根があり、壁はなく、ヤシの葉でできたブラインドを寝るときには下ろしてました。バスルームもトイレもダイニングも共有で、砂浜の上にそれぞれの用途の小屋がある。そんな状況では、滞在中足にくっついてる砂が落ることは無かったです。


海が美しくて、緑が美しくて、砂が美しくて、みんなのんびりしてて、宿の人に椰子の実を取ってもらって飲んで、昼間ちょろちょろ走り回っていた黒豚がディナーに出てきて、ただただまったりしていた思い出。今から21年前のことですね。


パパラギの本で語られることは、衣服で全てを覆い隠している白人の習慣を哀れみ、革靴で足を窮屈にしていることを哀れみ、太陽や風を遮断して暗い箱(家)の中に暮らしていることを哀れみ、働いて働いてお金を稼ぐこと、必要以上に稼ぐこと、苦しそうに時間がないと嘆きながら稼ぐこと、そして稼がない人を馬鹿にすることを哀れみ、目的地に一刻も早く辿り着こうとして、途中で出会えたかもしれない美しい景色、人との出会いを失っていることを哀れみ、考えることを尊いこととして、いつも何かを考えていて、考えていない人を馬鹿と呼び、考え無いことで感じられるであろう心の隙間が無いことをサモア人が哀れむのです。そして何よりそんな白人の全てがサモア人よりも優れていると考え、サモア人にその価値観を植え付けようとしてくる白人に騙されるんな、と警告しているのです。


私たちは服を着ることも、働くことも、考えることも、もう放棄できないところまで来ているけど、そんな我々の当り前をむしろ哀れむ価値観を見せつけられて、苦笑と同時に清々しい気持ちにもなる本です。


さて、2019年末にニューカレドニアに行きました。ウベア島に住むまさこちゃんのおうちにも遊びに行きました。彼女が住むうちは、水道も電気もガスもないおうち。トイレも、私たちの概念でのお風呂場もないおうち。彼女は原住民のカナックと結婚しており、彼のお母さんは首都のヌメアに水も電気もガスも通ってるマンションはあるものの、ウベア島のオフグリッドな場所の方を好んで一緒に生活することが多いそうです。ちなみにまさこちゃんはリゾートホテルのマネージャーで、稼ぎはあるので、我々の考える、いわゆる普通の家に住むような生活も出来るはずですが、そんな我々の普通で備わっているべきものが無い生活を続けています。


不便なのか?我々基準では不便でしょう。でもそこには、生活の真の姿があったように思うのです。


まさこちゃんちの近くの海

彼女のうちの子どもたちと遊ぶ娘

寝室小屋。その中で、ソーラー発電でついてるテレビを見る子どもたち。




キッチン小屋


まさこちゃんが働くホテルの部屋から直結のビーチ(私が黒すぎてびっくりする。笑)

サモアもニューカレドニアも、たかだか10日間くらい滞在したことがあるだけで、彼らの価値観を私が語ることなんてできませんが、美しい島にいるからこその、ありのままに感謝する、必要以上を欲しない、そんなシンプルさがあり、我々のもっともっとを望む価値観とギャップの中に、もっと我々が見出したいものがあるように感じました。


パパラギ。不思議な本です。もし機会があれば読んでみてください。