【概要】
 

本記事では、子どもの虫歯(う蝕)の原因と対策について解説します。世界的な統計や日本の厚生労働省の調査結果をもとに、どの程度子どもに虫歯が生じているのかを示します。虫歯の主な原因となる糖分や歯磨き習慣、唾液の性質などの要因を取り上げます。そして、保護者ができる対策や、日頃から気をつけるべきポイントについても言及します。虫歯予防を前向きかつ明るい姿勢で捉え直すためのヒントになれば幸いです。

 

子どもの虫歯の現状:世界と日本のデータ

 

子どもの虫歯は、いまだに世界的に大きな問題とされています。世界保健機関(WHO)の「Oral health」によると、多くの国において、学齢期の子どもの60~90%が少なくとも1本以上の虫歯を経験していると報告されています(参考文献1)。これは、幼少期から学童期にかけての子どもの多くが、一度は虫歯を発症してしまう可能性があることを示しています。

 

さらに、虫歯は国や地域によってばらつきがあり、生活習慣や社会経済的な背景も影響します。国際小児歯科学会誌であるInternational Journal of Paediatric Dentistryに掲載された研究(Tinanoffら, 2019)によれば、5歳未満の子どもにおける「早期幼児期う蝕(Early Childhood Caries:ECC)」の有病率は、国や地域によって23%から90%と非常に幅広く報告されています(参考文献2)。これは、同じ年代の子どもでも、育つ環境や食習慣が異なることで虫歯リスクに大きな差が生じうることを示唆しています。

 

一方で、日本の状況はどうでしょうか。厚生労働省が5〜6年ごとに実施している歯科疾患実態調査のうち、2016年(平成28年)に公表された報告をみると、3歳児の虫歯(う蝕)有病率は28.2%となっています。これは1973年(昭和48年)の63.0%から大きく減少してきたものの、依然として3歳児のおよそ3割弱が虫歯を経験していることになります(参考文献3)。また、年齢が上がるにつれて虫歯を経験する子どもの割合が増え、5歳児ではおよそ半数近くに達する地域もあることがわかっています。こうした数字から、日本でも虫歯予防がまだまだ大きな課題であることが読み取れます。

 

虫歯が起こる主な原因:食習慣から唾液まで

 

では、なぜ子どもに虫歯が生じるのでしょうか。虫歯はさまざまな要因が複合的に絡んで発生するとされていますが、大きくわけると以下のようなポイントが挙げられます。

 

● 糖分の摂取 虫歯菌は糖を分解し、酸を産生します。この酸が歯のエナメル質を溶かすことで虫歯が進行します。特に子どもは甘いお菓子やジュースなどを好むため、糖分の摂取量が多くなりがちです。欧米での研究でも、砂糖の多い食事を継続的に摂取すると、歯の脱灰(歯の成分が溶け出す現象)が進みやすいという結果が示されています。

 

● 歯磨き習慣 歯磨きで十分に汚れが落とせないと、歯の表面や歯と歯の間に食べかすが残り、虫歯菌が繁殖しやすくなります。特に小さな子どもは自分で上手に磨くのが難しいため、仕上げ磨きの有無が虫歯リスクに大きく影響します。

 

● 唾液の量や質 唾液は食後に歯の表面に残った酸を中和し、脱灰を防ぐ働きを持っています。子どもによっては唾液の分泌量が少ないケースや、夜間に寝る前に大量の糖分を摂取してそのまま就寝してしまうケースなどがあり、唾液の自浄作用が十分に働かないと虫歯のリスクが高まります。

 

● フッ素との関係 フッ素は歯の表面を強化し、酸に溶けにくい歯質を形成する助けとなります。歯磨き粉やフッ化物洗口など、フッ素を適切に利用することで虫歯を予防できる可能性が高まることが、数多くの研究で示されています。

 

子どもの虫歯を食い止めるための具体的対策

 

虫歯の原因を理解できたところで、次は実際にどんな対策が可能か見ていきましょう。子どもにとって「嫌々やる虫歯予防」ではなく、親子ともに前向きに楽しく習慣化できるような工夫を取り入れることが大切です。

 

● 食生活のコントロール 甘いものを完全に禁止するのは難しいですが、食べる量やタイミングをコントロールするだけでも虫歯リスクは変わります。例えば、おやつの時間を決め、その時間内だけに甘いものを食べ、だらだら食べを避ける方法です。また、ジュースやスポーツドリンクなど糖分の高い飲料を頻繁に摂取している場合は、水やお茶に置き換えるなどの工夫が有効です。

 

● 適切な歯磨きの習慣づくり 子どもの歯磨きは、早い段階から習慣にするほど身につきやすいとされています。小さなうちから遊びや歌に合わせて「歯磨きタイム」を設け、歯ブラシへの抵抗感を減らす工夫をするのも良いでしょう。就寝前の仕上げ磨きは特に重要で、できるだけお子さんを寝かせる前にしっかり磨いてあげることが大切です。

 

● 歯科医院での定期検診とフッ素塗布 フッ素塗布の効果は数々の研究で示されています。専門家の手によるフッ素塗布を定期的に受けることで、歯質の強化を図ることができます。また、定期検診により小さな虫歯のうちに発見・治療できれば、抜歯にまで至らずに済むケースが多くなります。

 

● 保護者が前向きにサポートする環境づくり 子どもの虫歯予防には、家庭環境も大きく影響します。親が忙しくて歯磨きの時間が取れない、おやつ管理ができないといった状況が続けば、予防習慣は維持しづらくなります。まずは保護者自身が「歯を大切にすることの意義」や「きちんと磨くと気持ちがいい」という前向きなイメージをもつことで、子どもも積極的に虫歯予防に取り組みやすくなります。

 

虫歯予防を前向きに捉える視点

 

虫歯ができてしまうと子ども本人が痛い思いをするだけでなく、治療による通院や金銭的負担、日常生活のリズムの乱れなど、保護者への影響も大きいものです。しかし、虫歯予防を「やらなきゃいけない義務」「叱られて嫌々やるもの」と捉えてしまうと、気が重くなりがちです。

 

そこで、虫歯予防そのものを「子どもの健やかな成長を守るための前向きな活動」として捉えてみてはどうでしょうか。歯が健康であることは、食べ物をしっかり噛んで味わえること、思い切り笑えること、そして将来にわたる全身の健康維持にもつながります。乳歯のうちに虫歯が増えると、永久歯に影響を及ぼすリスクもありますから、幼少期からの習慣づけは非常に大切です。

 

さらに、子どもにとっては、大人の誉め言葉や一緒に取り組む楽しさが大きな原動力になります。歯磨きの後に「今日も上手にできたね!」と声をかけてあげたり、上手に磨けたらシールを貼るなどの工夫をすると、歯磨きが「苦痛」ではなく「楽しい活動」に変わっていきやすくなります。こうした積極的な演出は、子どもだけでなく大人の意識も明るくしてくれます。

 

子どもの笑顔と歯の健康を守るために

 

日本でも虫歯の有病率は徐々に低下してきているとはいえ、いまだ3歳児の約3割近く、5歳児では半数近くに及ぶ子どもたちが虫歯を経験しています。これは日頃の生活習慣や予防対策の差がそのまま反映されているとも言えます。家庭内での食習慣や仕上げ磨き、定期的な歯科受診など、どれか一つを徹底するだけではなく、複数の対策をバランスよく取り入れることが重要です。

 

海外では、学童期におけるフッ化物洗口の集団実施なども積極的に行われており、日本でも地域によっては学校や園でフッ化物洗口を取り入れるところが増えてきています。こうした公的施策の利用と、家庭での地道なケアを組み合わせることが、子どもの虫歯ゼロに近づく最善策です。

 

虫歯は痛みや不安をもたらす厄介な問題ではありますが、その一方で、日々のケアを通じて親子のコミュニケーションが深まったり、お口の健康を通じて自己肯定感を高めたりするチャンスにもなり得ます。大切なのは、予防を「楽しく・前向きに継続する」ことです。子どもの豊かな笑顔を守るため、ぜひ「自宅でできること」「歯科医院で受けられること」を見直して、明るい気持ちで虫歯予防に取り組んでみてください。

 

【参考文献】

  1. World Health Organization: Oral health
    https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/oral-health

  2. Tinanoff N, Baez RJ, Diaz Guillory C, et al. Early childhood caries epidemiology, aetiology, risk assessment, societal burden, management, policy: global perspective. Int J Paediatr Dent. 2019;29(3):238-248.
    https://doi.org/10.1111/ipd.12456

  3. 厚生労働省「平成28年歯科疾患実態調査の結果」
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/gaity/16/dl/gaikyo.pdf