【概要】
この記事では、「人見知り(stranger anxiety)」と「記憶力」の関係について、海外・国内の研究論文を踏まえながら詳しくお伝えします。赤ちゃんがパパやママ以外の存在を怖がったり、泣いてしまったりする「人見知り」は多くの家庭で見られる現象ですよね。これが実は赤ちゃんの記憶力や認知の発達と深いかかわりを持っているとしたら、ちょっと興味が湧きませんか。今回は、具体的な研究データを交えて「人見知り」と「記憶力」の意外なつながりを探ってみます。
■■■1. 人見知りとは■■■
赤ちゃんが生後6〜9か月頃になると、見慣れない人が近づいたときに泣いたり、怖がったりする場面が増えてくることがあります。これがいわゆる「人見知り(stranger anxiety)」と呼ばれる現象です。抱っこされていても、突然知らない人の顔を見て泣き出したり、パパやママの背中に隠れようとしたりする姿を目撃することもあるでしょう。僕自身も、わが子が急に親戚に人見知りして大泣きしたときには、「そんなに怖いの?」と驚いた記憶があります。
実は、人見知りが始まる頃は赤ちゃんの認知能力、とりわけ「記憶力」や「顔の識別能力」が大きく発達しているサインでもあるという見方があるんです。
■■■2. どのくらいの赤ちゃんが人見知りを経験する?■■■
乳児の人見知りに関する代表的な研究のひとつに、Sroufe(1977)の報告があります。アメリカの乳児を対象にした縦断的な観察研究で、約80名の赤ちゃんを定期的に追跡調査した結果、
・生後9か月前後の乳児のおよそ70〜80%が、知らない大人に対して泣く・背を向けるなどの「人見知り行動」を示すことが確認されたそうです。
出典:
Sroufe, L. A. (1977). Wariness of strangers and the study of infant development. Child Development, 48(3), 731–746.
https://www.jstor.org/stable/1128342
つまり、「人見知り」自体はごく一般的な発達の過程であり、ほとんどの赤ちゃんが経験するとされているのです。
■■■3. 人見知りが始まる理由■■■
なぜ赤ちゃんは人見知りをするのでしょうか? 研究者の間ではさまざまな仮説がありますが、大きくは「顔の識別能力」と「記憶力」の発達がポイントだと考えられています。
●顔の識別能力
赤ちゃんは、生後2〜3か月頃から顔を見ることを好み、徐々に周囲の人との表情の違いを感じ取り始めます。さらに6〜9か月頃になると、パパやママの顔と、見慣れない人の顔をはっきり区別できるようになると言われています。
●記憶力(特に長期記憶)の向上
Rovee-Collier(1999)の研究によると、乳児の記憶能力は生後数か月の間に急速に発達し、6〜9か月を迎える頃には以前見たことのある人や物をある程度覚えていられるようになるそうです。
出典:
Rovee-Collier, C. (1999). The development of infant memory. Current Directions in Psychological Science, 8(3), 80-85.
https://journals.sagepub.com/doi/10.1111/1467-8721.00019
こうした認知的な成長によって「見慣れた人」「知らない人」を区別する力がつき、結果として人見知りという行動が顕在化すると考えられているわけです。
■■■4. 記憶力が良い子ほど人見知りが強い?■■■
では、記憶力が良い子ほど人見知りになりやすいのか? と言うと、一概に「強い」とは言い切れません。ただし、初めて会う人と慣れた人をはっきり識別できるようになることで、人見知りの行動が強く出るケースがあると複数の研究者が指摘しています。
●知覚・認知の発達段階での個人差
Rovee-Collier(1999)の研究でも示されている通り、乳児の記憶力や注意力には個人差があります。顔の違いを敏感に察知する子は、「あれ、この人知らない顔だ」と気づくスピードが早く、その分だけ警戒心が強く出やすいという可能性も考えられるわけです。
■■■5. 人見知りと記憶力:実際のエピソード■■■
わが子は生後8か月頃から急に人見知りが激しくなり、親戚の家に行くと大泣きしてなかなか落ち着きませんでした。でも、その一方で家のオモチャの場所やママのちょっとした表情の違いにはすごく敏感に反応していて、「覚えてるんだな〜」と感心したものです。まさに「人見知りが強い=記憶力の発達を実感」した瞬間でもありました。
もちろん、すべての赤ちゃんが同じような様子を示すわけではありません。あまり人見知りしない子でも、別の局面では優れた記憶力を見せることもあるので、一概に結論づけるのは難しいところです。
■■■6. 人見知りの時期とピーク■■■
●ピークは9〜12か月頃?
Sroufe(1977)の調査では、人見知りのピークが9〜12か月頃に現れるケースが多いという報告があります。その後、1歳半〜2歳頃にかけて少しずつ落ち着いてくることが多いようです。これはちょうど赤ちゃんがハイハイや伝い歩きを始め、行動範囲が広がる時期とも重なっており、周囲への興味と警戒心が同時に高まるからとも考えられます。
●個人差は大きい
ただし、「何か月でピークを迎えるか」「そもそも強く出るかどうか」は子どもによってまちまちです。早い子だと6か月頃から始まったり、ほとんど人見知りせずに成長してしまう子もいます。
■■■7. 人見知りは悪いこと?■■■
「人見知り=消極的」というイメージを持つ方もいるかもしれませんが、専門家の多くは人見知りは赤ちゃんの正常な発達の一部であり、顔を覚えて区別する力が育っている証拠と捉えています。むしろ「この子は自分の周りをしっかり観察しているんだな」と前向きに受け止めると、お子さんの成長を実感しやすくなるでしょう。
もちろん、あまりにも長く続いたり、日常生活に支障をきたすほど強い人見知りがある場合は、専門家への相談も検討したほうがいいかもしれません。子育て支援センターや小児科、保健師さんなど、周囲のサポートを活用しましょう。
■■■8. サポート■■■
赤ちゃんが人見知りして泣いているのを見て「どうしたらいいんだろう?」と戸惑うことがありますよね。ここでは、いくつかの対処のヒントを挙げてみます。
●無理に抱っこを渡さない
赤ちゃんが怖がっている相手にいきなり抱っこをさせようとすると、さらに泣きが激しくなる場合があります。まずはパパやママが安心できる距離で抱っこをして、赤ちゃんが落ち着くのを待ちましょう。
●ゆっくり時間をかけて慣れさせる
いきなり知らない人と接触するのではなく、少し離れたところから様子を見せたり、声をかけてもらったりするようにすると、赤ちゃんが「この人、そんなに怖くないかも」と少しずつ認識できるかもしれません。
●赤ちゃんの気持ちを代弁する
「びっくりしたんだね、初めて会う人だから緊張しちゃったんだね」というように、赤ちゃんの気持ちを言葉にしてあげると、安心につながると言われています。泣いている赤ちゃんをいきなり叱らないことも大切です。
●記憶の助けになるようなアプローチを試す
例えば、家族の写真を見せながら「この人がおばあちゃんだよ」「今度会う人はこの人だよ」と事前に何度か顔を見せておくと、赤ちゃんにとっては初対面の相手でも「どこかで見た顔だ」と感じられるかもしれません。これは記憶力をサポートして、人見知りを和らげる一手にもなるでしょう。
■■■9. 記憶力を刺激する遊び方■■■
●絵本やカードで顔の認識を促す
いろいろな表情が描かれた絵本やカードを使い、「これは笑ってる顔だね」「こっちは泣いてる顔だね」と話しながら見せると、表情や顔の特徴に対する関心が高まるかもしれません。
●かくれんぼや「いないいないばあ」
定番の「いないいないばあ」は、まさに赤ちゃんの記憶(顔を隠してもそこにいる)や予測能力を刺激すると言われています。人見知りの時期には大好きなパパやママが顔を隠しても、ちゃんと「そこにいる」とわかることで安心感が育ちます。
●写真アルバムを一緒に見る
家族や親戚、友達などの写真を見ながら、「この人は○○さんだよ」と声をかけるだけでなく、赤ちゃんが手で触れたり指差ししたりするのを待つと、より積極的に記憶回路が働くとも言われています。
■■■10. まとめ■■■
人見知りと記憶力の関係について、海外の研究(Sroufe 1977、Rovee-Collier 1999 など)や育児の実体験を交えて見てきました。大きなポイントをおさらいすると、
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人見知りは6〜9か月頃に始まり、9〜12か月あたりがピークとなる場合が多い。
ほとんどの赤ちゃんが経験する、ごく一般的な発達現象とされます。 -
人見知りが見られるのは、顔の識別能力や記憶力が向上し、「知っている人」「知らない人」を区別できるようになってきた証拠でもある。
記憶力が伸びるにつれて、初めて会う人に対して強い警戒心が湧くという仕組みです。 -
人見知り自体は悪いことではなく、むしろ成長のサイン。
ただし、あまりにも強く長引く場合は、保健師や小児科医などに相談してみると安心です。 -
パパができるサポートとしては、無理強いをせずにゆっくりと慣れさせ、赤ちゃんの不安な気持ちを受け止めることが大切。
写真や事前の顔見せなど、記憶をサポートする工夫も有効かもしれません。
人見知りが始まったからといって「困ったな」と思うのではなく、「赤ちゃんの認知と記憶がグングン成長しているんだ」と前向きに捉えるのがおすすめです。僕も、わが子がひどく人見知りして泣いてばかりいたときは正直焦りましたが、今思えば「あのときが一番“顔を覚える力”が育っていたんだなぁ」と感じます。今では家族や知り合いの顔をしっかり覚えて、むしろ楽しそうにコミュニケーションしていますから、「あのときの大泣きは何だったんだろう?」と思うほどです。
もし現在、人見知りで苦労しているパパ・ママがいたら、「こんなに強く警戒しているのは、それだけ周囲をしっかり見分ける力が付いたからなんだ!」と考えてみてくださいね。とはいえ、毎回大泣きされると外出先では大変ですし、家族や友人にも気を使ってしまいます。でも、時間が経てば自然と落ち着いてくるケースが大半なので、あまり思い詰めずに、赤ちゃんのペースを尊重しながらサポートを続けていきましょう。大きな心で受け止める姿勢が大切ですよ。