避暑みやげ(岡本一平画)

 

娘 「ひと夏、海辺へ連れて行つたので坊や、こんなに肥りましてよ」
鳥屋のおやぢ 「どれどれ、ナルホド二百目方殖えた、お手柄お手柄」
娘 「坊やを七面鳥、量るみたいな事しないでよ、お父さん」
婿 「御商売柄、あゝなさつてみるのが一番、愛感が満足させられるのさ。やらしてあげなさい」

 

「東京朝日新聞」昭和10年(1935)9月1日
 

 新聞社が、「マンガページ」欄に11作品を載せた。上図は、そのうちの一点。

「鳥屋」というのは、鳥を専門に調理し、飲食を提供する料理屋。主に、鶏や七面鳥などを鍋料理、焼き物などにして出す店である。

 この頃は、牛鍋屋・寿司屋などと並んで(あるいは、それ以上に)、東京の都市部では多い飲食小料理屋であった。現在の縄のれん風の焼き鳥屋より、ずっと高級感が漂うお座敷店が多かった。

 「二百目方殖えた」は「二百匁(750グラム)体重が増えた」という意。

 婿の使う用語「愛感」が面白い。それにしても、婿さんがきちんと敬語を使っている。われらが祖父母世代は、みなこうだったのだろう。まだ、百年も経っていない、ほんの少し前の時代である。

 いまじゃ、「パパ、なにすんのヨ!」「親父さん! そりゃないッスよ」ですぜ。

 岡本一平は、太陽の塔などで知られる、画家・岡本太郎の父親。かの子の亭主である。