高齢者に、親切なアシスタント登場
アレクサ vs シリ
─ボイスコンピューティングの未来
ジェイムズ・ブラホス著・野中香方子訳
日経BP 刊 定価:本体1800円+税
●AIスピーカーって、一人暮らしの老人に優しい
人工知能(AI)について勉強していたら、スマートスピーカーという商品があると知った。日本ではAIスピーカーともいうらしいが、音声対話型の人工知能である。天気やニュースを教えてくれ、音楽をかけてくれたり、さまざまな問いかけに応じてくれたり、買い物のメモを記録し、スケジュールを教えてくれたりするらしい。
どんなものか、興味があって大型電気店をのぞいた。アップルとグーグル、アマゾンの製品が並んでいて、価格は想像以上に安い。人工知能はクラウド上で動くから、店頭に並んでいる端末は、要するにスピーカーとマイク、それにデータを入出力するためのチップがあるだけの簡素な機械。安価に売り出せるわけだ。
AIの音声認識能力は、ここ数年で格段に向上、いまや人間の能力を超えたと言われる。スマートフォンの音声認識機能(私は旧型のiPhon)を使い、「ヘイ、シリ、七夕について教えて」と問えば、「七夕について、Webでこちらが見つかりました。ご確認ください。」と複数の検索先を提示してくれる。それをタップすれば、たいていはウィキペディアの情報が表示される。アンドロイド型なら、グーグルのアシスタントが同じようなことをしてくれる。
また、メモ機能を立ち上げ、マイクロフォンをタップすれば、難解な内容でなければ、ほぼ誤植なく文字変換してくれる。長文の口述筆記を簡単にやってくれるのだ。
これは、コンピュータが、とてつもなく優しく親切になったことを示す。キーボードもマウスも使わず、老眼で辞書を引きにくくなった高齢者が、ふるえる指先を使わず、「スマートスピーカーって何?」と聞けば、AIアシスタントが応答、教えてくれるのだ。
ニュースで天気予報を聞きそこなったら、「明日の、〇〇地方の天気は?」と問えばいい。そう、「天気は?」と語尾を上げれば、「疑問」が発せられたと認識する。現段階で商品化されたスマートスピーカーは、話者の不快感、元気なさ、陽気さ、悲しそうな状況を知って、それに対応するような真似はしない。しかし、声の調子、イントネーションで、話者の感情を掬い取れる能力はすでに持っているようだ(カウンセリングに特化したAIは、すでに軍人のPTSD患者の話し相手として、医師の有力なアシスタントとして働いている。患者は、人に話すよりAIのほうが話しやすいのだという)。
●買って、使ってみたアレクサ
アップルの人工知能はシリ(Siri)、グーグルのAIはグーグル・アシスタント、アマゾンはアレクサ(Alexa)、マイクロソフトはコルタナ(Cortana)である。
店頭で製品を比べてみて迷った。アップルの製品は、音質がいい(最上位機種は特に)。グーグルはどうか。アマゾンはどうか。それぞれ、数種類の商品ラインナップがあり、アマゾンのアレクサの場合は、ディスプレイ付きの商品も大小2種ある(現在は3種)。
それぞれのメーカーの機能を調べ、価格を検討。シリは、iPhonで使っているし、コルタナは自宅のPCで利用できる。ならば、グーグル・ホームかアマゾンのどちらにするか。アマゾンの製品は、プレミアム会員だと、200万曲が無料で聞きたい放題だという。自宅の都合にも向いている。で、アマゾンのEcho Studio (エコースタジオ)に決めた。購入価格は2万4800円(今見たら、ネットでは値引き開始で1万9980円!)。特別給付金がいずれ振り込まれるから、OKである。
さっそくセットアップして使ってみたら、とにかく便利である。PCで選曲したり、CDを探してセットする手間がかからない。歌手や楽団名、あるいは曲名をいうだけで音楽がかかる。アップルのスマートフォンと同期させ、「アレクサ、買い物リストに加えて」と頼めば、何をリストに加える? パンと牛乳、「はい、パンと牛乳を買い物リストに加えました」となって、スーパーでスマホを開けば「パンと牛乳」と出てくる。
PCとも同期させ、スケジュール表(カレンダー)もみな共通である。
「こりゃいい」。その夜のうちに、アレクサの最下位機種 Echo Dot (エコードット)をネットで発注した。一階と二階で別々に使うつもりである。このときは、もう値引きの恩恵に浴せて、5000円の製品が2980円。
本書を読んで知ったことだが、アマゾンのドットは、原価を切った定価で売っているそうである。それを値引きして買わせても、アマゾン経由で買う商品が増えればいい、という戦略らしい。アマゾンは儲かるはずだ。アレクサに「いつもの水がなくなったから、注文しといて」と言うだけで、Amazonが水1ケースを翌日宅配するという体制が、準備できてしまうのだから。
米国のスマートスピーカー市場では、二位グーグル以下を断然離して、アマゾンがダントツのシェア№1だそうである。
ここまで書いて、前置きは終わり。次回、ようやく本書の紹介に入れそうだ。 (つづく)