タイラの声で目が覚めた。


タイラ「気をつけて帰れよ。」

ユズ「……」


タイラは、誰かと電話をしていた。

いや、誰かではなくアユだ。
タイラの彼女のアユ。

微かに漏れる声を聞くだけでアユだと分かる。

それ程に、わたしにとってアユは大きな存在だった。


彼女の存在を知りながら、タイラと付き合うコトは、思いの外、精神的に辛かった。


最初は、気にしないように振る舞って、理解ある女を演じていた。


だけど、そんな強がりは、あっという間に崩れ出して、わたしは面倒くさい女になっていた。


ユズ「…アユ?」

タイラ「うん、バイト終わったみたい」

ユズ「そっか、ねぇ同じ大学受けたりするの?」

タイラ「…うん」

ユズ「わたしもタイラと同じ大学行きたい」

タイラ「いやいやいや、それは無理でしょ」

ユズ「どうして?アユには言わなきゃ分からないでしょ?」

タイラ「無理言わないの」


そう言って、タイラはわたしを抱き寄せて眠ってしまった。



わたしは、時々。
透明人間になってしまう。

アユと電話をしているタイラの隣で幾度となく感じた不安。

わたしといるのに、タイラはアユにひとりだと話す。

そして、アユにとってタイラは自分だけの大事な彼氏で、わたしなんて存在していない。


そんな当たり前の事実が、時々とても怖くて、泣きそうになる。


こんな脆くて儚い関係。

いつ終わってもおかしくない。


そう頭では分かっているのに、タイラが欲しくて欲しくてたまらない。

わたしだけのタイラにしたい。

そうしたら、きっと誰よりも大切にするのに。



夜、駅まで自転車でタイラに送ってもらった。


夏の夜の風が気持ち良くて、タイラにしがみついた。


ユズ「ねぇ、わたし透明人間になっちゃうんだ」

タイラ「え?」

ユズ「アユから電話くると、透明人間になっちゃう気がする」

タイラ「…何言ってんの(笑)」


タイラは、自分の腰に巻き付いたわたしの手を撫でて言った。


タイラ「ユズは透明人間なんかじゃないよ、オレにはちゃんと見えてる。大事な彼女だよ」



帰りの電車に揺られながら、胸が苦しくなった。


窓から月を眺めながら、タイラにメールを送った。

一言、ありがとう。と。