肺炎の心配もなくなり、やっと少し安心できるようになったそうちゃんは、スッキリとした口元をよく動かし、これまで以上に色々な表情を見せてくれるようになっていました。
特に、母乳綿棒を近づけた時には、自由になったお口を大きく開けてますます積極的に吸ってくれるようになり、そんな姿を見ていると、ずっと夢だった授乳がいつか叶うのではないかと期待したくなってしまうほどでした。
「これだけ口をよく動かしてるなら、少しずつ嚥下訓練も始めていっちゃってもいいかもね。」
産まれてすぐの頃、センター長から嚥下はできないと言われていたそうちゃんが、今はそのセンター長から嚥下訓練の提案をしていただくことができ、私はここまで沢山頑張ってきたそうちゃんを思うと嬉しくて喜びで胸がいっぱいになっていました。
これからはどんなことに挑戦できるようになるのかな。
これからどんな風に成長していってくれるのかな。
それまではなかなか遠い先のことまでは考えることができずにいましたが、手術を終えて元の病院へ戻ってきてからは、自然と考えるのは前向きな未来のことばかりでした。
もちろん手術をしたからといって心配事がなくなった訳ではありませんでしたが、それでも私がこれほど前向きな気持ちになれていたのは、手術をしたことで、自宅管理ができるようになり、夢にまで見た退院が現実味を帯びてきていたからだと思います。
もうすぐ家族で過ごせるようになるんだね。
あれほど心配で迷っていた手術を選択することができて本当に良かったと、この頃はそうちゃんを見るたびに笑みがこぼれていたような気がします。
ところが、周りの反応は少しだけ違いました。
この日は、主治医の女性の先生と看護係長さんがそろって、私とそうちゃんのところへ退院に向けての手続きや自宅管理についての話をしに来てくださいました。
「お母さん、自宅での管理になるとしばらくは外出も難しくなるし、夜も吸引でなかなか寝られなくなるし本当に大変だから、不安な時や辛い時には絶対に1人で抱えないでちゃんと相談するんだよ。」
長い入院生活で何でも話せるようになっていた係長さんは、私たち家族のことをとても心配してくれていました。
「私たちはこれが仕事だから大変ではないけど、これが生活となるとすごく大変だろうなって思うから…。」
それは、自宅での管理の大変さや難しさを良く知っていた看護師さんだからこその想いだったのだと思います。
いつもそうちゃんのことだけではなく、私たちのことまで心配してくださり、病院の皆さんの優しさには感謝してもし尽くせない思いでしたが、でも私は、どんなに大変なことが待っていようとも、それ以上にそうちゃんと一緒に家族みんなで家で過ごせることをずっと願い、夢に見てきました。
そうちゃんが生まれてきてくれたときから、病気が分かったときから、私はそうちゃんにできることを少しでも増やしてあげられるなら、そして命を守ることができるのなら、何でもやりたいと願ってきました。
何でもやるので、贅沢は言わないので、どうかそうちゃんの命だけは奪わないでくださいと、どれほど願ったか分かりません。
そうちゃんと一緒に生活することをずっと願ってきた私は、周りの皆さんの心配をよそに、不思議なくらいに前向きでしたが、ただひとつ寂しかったのは、ずっと家のように過ごしてきたNICUとGCU、そして家族のように接していただいた先生や看護師さんたちと離れることでした。
それはきっとそうちゃんも同じだったと思います。
病院の皆さんとのお別れを考える瞬間だけは、やっぱりもう少し入院していてもいいかな…と矛盾した気持ちが湧き上がってきてしまっていました。
そして、そんな退院の話が具体的に進んだこの日は、私の母が久しぶりにそうちゃんと面会をさせていただいた日でもありました。
本来は子の両親しか許可されていない面会を、入院が長引いていたそうちゃんは、病院側の特別な計らいで、月2回程度のペースで祖父母面会を許可していただいてきました。
ところが今回、退院の話が進み始めたことにより、このような面会ができなくなるかもと婦長さんからお話をいただき、母は病院では最後になるかもしれない面会の時間を惜しむかのように、この日はそうちゃんの手を握りながらいつまでもずっと話しかけ続けていました。
そして、そうちゃんもそんな時間を楽しんでいるかのように、何度も笑ったり、得意のびっくり顔を見せてくれたりして、この日はいつも以上にとってもご機嫌で、陽の差し込む明るいGCUでとてもゆったりとした温かな時間を過ごすことができました。
母が帰ってからも、いつまでもニコニコと楽しそうなそうちゃんを見ていると、私もとても幸せな気持ちになり、看護師さんたちも「今日のそうちゃんは一段とご機嫌だね~」と声をかけにきてくれては、そうちゃんの遊び相手をしてくれていました。
家族や看護師さんたちの笑顔に囲まれて、とても嬉しそうなそうちゃんの笑顔に私たちも温かい気持ちにさせてもらえて、こんな幸せな時間がいつまでも続いてほしいな…としみじみと想ったこの日が私は今でも忘れられません。
この日は、私たちにとっては幸せ過ぎるくらいに温かな、大切な、最後の日になりました。
写真はスッキリしたお口で母乳綿棒を吸っていた時のそうちゃんです*
