産まれた時からずっと人工呼吸器管理下にあったそうちゃんは、自力で痰を処理することができず、これまでずっと気管と口腔内の痰を毎日定期的に看護師さんに吸引していただいてきました。

いつもは気管と口腔内とそれぞれ平均1時間で2〜3回くらいの吸引が必要でしたが、CRPが上がり風邪や肺炎のような症状が出るとその頻度は劇的に増え、気管の痰だけでも1時間に4〜5回は吸引していただかないとサチュレーションが下がってしまうほどで、口腔内の吸痰も合わせると10回近く吸痰していただいていることになり、看護師さんの負担は相当なものだったと思います。


そうちゃんが苦しそうにするたびに忙しそうな看護師さんを探して吸痰をお願いし、なんだか申し訳なくて、自分で出来たらなぁとよく考えていたので、口腔内の痰だけでも吸引をやらせてもらえると提案していただいた時にはとても嬉しく、少しホッとしていました。

吸痰の練習は、早速翌日からやらせてもらえることになりました。

約5ヶ月半の間、毎日何度も見てきた吸痰だったので、イメージトレーニングだけは十分すぎるくらいにできていました。

奥までチューブを入れる時の加減だけは少しドキドキしましたが、思ったよりもスムーズに問題なく初めての練習を終えることができました。

そうちゃんは私に吸痰をされている間、ずっと私の顔をじーっと見続けていて、いつもと違う吸痰を嫌がることもなく喜ぶこともなく、ただただ不思議そうに見つめていました。

私はそんな何を考えてるのか分からないそうちゃんの表情を見ながら、新しいステップを楽しんでいました。

その後は、1週間程度は看護師さんに見てもらいながら練習を続け、1週間後のテストでOKが出たら独り立ちさせていただけることになりました。


これを機に、これまで以上にGCUの看護師さんとお話しする機会も増え、楽しく過ごしていましたが、この頃ひとつだけ気になっていたことがありました。

それは、主治医の若い方の先生とのコミュニケーションが極端に減ってしまっていたことでした。

全く見かけない訳ではなかったのですが、たまに見かけても忙しそうに通り過ぎてしまうか、少し離れたところで顔を見る程度だったので、挨拶や会話も自然となくなり、そんな状態が数週間くらい続いていました。

ふと不思議に思った私は、たまたま臨床心理士の先生とお話をした時に、「〇〇先生お元気ですか?」と何気なくその若い主治医の先生のことを尋ねました。

すると、思いがけない答えが返ってきました。

「実はね、小児科に異動したの」

「今までお母さんたちには色々複雑な思いをさせちゃったから、次は絶対に良い先生をつけてあげようって、今色んな先生たちが次の主治医を考えてくれてるからね!」

そう嬉しそうに教えてくださいましたが、私の内心は少し複雑でした。

確かに、ぶっきらぼうなセンター長と大人しい若い先生とのコミュニケーションにはとても苦労した時期もありましたが、色々な葛藤をしながらも少しずつ距離を縮めてこられたかなと思っていたところだったので、ただ忙しかった訳ではなく、もう主治医ではなくなっていたんだという事実を突然知り、私は少し動揺していました。

元々大人しい先生だったので、今となっては理解もできるのですが、そうちゃんが産まれた時からお世話になっていた先生の異動を知らされることもないまま、いつのまにフェードアウトしてしまっていたことに当時は若干のさみしさを感じずにはいられませんでした。

でも、他の先生方はすでに気持ちを切り替えていて、そうちゃんの主治医が変わることをとても前向きに捉えていてくれているようでした。

「今までごめんね〜センター長はそのままだけど、この機会に、そうちゃんにとってもっと良い先生がサポートしてくれるように今色々企んでるからね!」

私が一番好きだった女性の先生は、センター長のことを冗談半分でイジリながら、今の状況を嬉しそうに報告してくれました。

その先生は、私の前だけでなく、センター長本人にもおかしいと思うことはハッキリと伝えているとても気持ちの良い人柄の先生だったので、そこにはちゃんと仲間としての愛も感じることができて、なんだかんだきっと医師の方々も良い関係なんだろうなと思いながらいつも見ていました。

5ヶ月半お世話になった主治医の突然のフェードアウトに若干のさみしさは残ったものの、他の先生方の前向きな様子を見ているうちに、気づくと次の主治医を楽しみにしている自分がいることに気づきました。

どんな先生が来てくれるのかな。

医師としての技術よりも、一生懸命で、そうちゃんを愛してくれるひとがいいな。

そんなひそかな願いが、沢山の方々の配慮のおかげで数日後に叶うこととなりました。


いなくなってしまった主治医の先生の代わりに新しく来てくださった先生は、とても親しみやすい笑顔の女性の先生で、私に簡単な自己紹介をしてくださったあと、

「そうちゃんには昨日先に挨拶させてもらっちゃいました。ね、そうちゃん♪」

そうちゃんに向ける愛おしそうな笑顔を見て、私はなんとも言えない幸せな気持ちになりました。

「可愛くてたまらない」と言い残して去っていったその先生のことを、近くで見ていた先生が色々加えて教えてくれました。

医師としての経験は、これまで主治医をしてくれていた若い先生と同じくらいだということ。
今までは小児科で勤務していたこと。
とにかく子どもが大好きな方だということ。

そして、そんな周りの先生方の話を聞いていて、身内からもとても愛されている先生だということも伝わってきました。

この日からセンター長とその女性の先生がそうちゃんの主治医となり、そうちゃんを愛してくれるひとがまたひとり増えてくれたことを心から嬉しく思いました。

そしてそうちゃんも、心なしか女性の先生になんだか嬉しそうに見えましたニコニコ

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