そうちゃんは、産まれた時から自発呼吸をしていましたが、おそらく舌根沈下が原因で呼吸器を外すと気道が閉塞されてしまうのではないかという理由からずっと人工呼吸器管理が続いていました。

しかし、人工呼吸器をしていても呼吸状態は安定せず多呼吸であることが多く、呼吸器の設定はずっと高くなっていたので、少しでも肺への負担を軽減しようと、そうちゃんは通常の肺に空気を送り込むモードではなくブルブルと常に胸を振動させて換気をする高頻度振動換気というモードになっていました。

高頻度振動換気というモードは、肺への負担が少ないという大きなメリットがありましたが、ただ、本人はラクなので自発呼吸をサボってしまうことがあるのだそうです。

この設定は、多呼吸の原因と思われた食道裂孔ヘルニアが見つかった後も変わっていませんでした。


そして、センター長から『呼吸器の設定を下げられるか挑戦したい』と言っていただけたその内容というのが、このブルブルと振動させる呼吸器のモードを定期的に空気を送り込むモードに変えて行くというものでした。

肺への負担は増えてしまいますが、うまくいけば、空気を送り込む回数を少しずつ減らして自発呼吸で頑張れるかどうかを確かめることもできるのです。


これまでそうちゃんは、敗血症になった時以外は酸素と二酸化炭素の交換も問題なくできていて、サチュレーションを大幅に下げたこともなく、少しの移動は呼吸器を外しても問題はなく、特に点滴のあとミルクを持続注入にしてからは呼吸状態はずっと落ち着いていました。


そんなそうちゃんを見て、「本当にそうちゃんは人工呼吸器が必要なのかな?」なんて話すこともあった私と主人は、また大きな一歩を踏み出せることを知り、とても嬉しく思っていました。

そして何より、これまであまり前向きなことを言わなかったセンター長からのとても前向きな提案が嬉しくて、何か光が見えたような明るい気持ちになれました。


私たちは、センター長にこの喜びを素直に伝えました。
そうすると心なしかセンター長も優しい表情を見せてくれて…
これからもこんな風にゆっくり心を通わせていけたらいいなと思いました。


そして翌朝、そうちゃんのところへ行くと、早速呼吸器の設定が変わっていました。

これまでは常に振動をさせていたので、なかなかの大きな音がしていましたが、定期的に空気を送り込むモードになってそうちゃんの周りはとっても静かでした。

その日は若い主治医の先生が珍しくそうちゃんの様子を何度も見に来てくれて、先生も看護師さんもそうちゃんの呼吸状態に変化がないかをかなり慎重に見てくれていました。

とても口数が少なくて大人しい先生でしたが、モードを変えてもいつもと変わらないそうちゃんを見て、

「落ち着いてますね。いい感じです。」

そう言って、とても嬉しそうな笑顔でそうちゃんを見つめていて、私は先生のその姿が嬉しくて仕方がありませんでした。


やはり、私が一番喜びを感じる瞬間は、そうちゃんへの愛を感じさせてもらった時なんだなと改めて気づきました。

まだまだ小さくて何も分からない月齢ではありましたが、でも私は、人のあたたかい気持ちや前向きな気持ちはちゃんと伝わっているような気がしていたのです。


先生本人には伝えられませんでしたが、患者家族の気持ちとして、相談事ばかりではなく、そんな優しさがとても嬉しかったこともちゃんと伝えておきたいと思い、臨床心理士の先生に会ったときに伝えさせてもらいました。


そうちゃんは呼吸回数を1分間で30回の設定からスタートさせましたが、採血をしても換気に問題はなく、翌日には25回に、さらにその翌日には20回にと、設定は日を追うごとに下げられていきました。