センター長の話が終わり、「質問はありますか」と聞かれたので、隣にいた主人を見ましたが、主人は呆然とした様子で黙っていました。

なんとなく、同じことを考えているような気がしました。

そうちゃんの敗血症という大きな壁を一緒に乗り越えてくださったセンター長からの、少し突き放すような言葉と表情にさみしさを感じずにはいられませんでした。


そうちゃんは食道裂孔ヘルニアがありながらも、奇跡的にミルクを吐いたりしたことは一度もなく、一見すると問題のないように見えましたが、センター長の話では、おそらく見えていないところで何度も逆流はおこっていて、そしてそうちゃんの呼吸にも影響をしている可能性があるとのことでした。

その話を聞いて、私はすべてに納得がいきました。

敗血症になり、点滴を始めてから突然呼吸状態が良くなったのはミルクを止めたからだったんだと。

それまでそうちゃんがしょっちゅう多呼吸になっていたのは3時間おきのミルクが原因だったのだと。

だとしたら、食道裂孔ヘルニアが原因であんなにも苦しそうに呼吸しているというのに、それでも手術の適応はないというのは、あまりに残酷な結論に感じてしまいました。

本人が辛い状態にあっても前向きな治療を考えてもらえないことに大きなショックを受けていました。


思いついたことは一通り聞き、最後にもう一度「逆流もあって呼吸にも影響していて本人が辛くても手術はしてもらえないんですか?」と尋ねましたが、センター長の答えは変わらないまま、話は終わってしまいました。


いつもは話が終わるとすぐに先生方はいなくなっていましたが、この日は私たちが先に部屋を退出し、部屋には主治医のふたりと看護主任さんが残りました。
3人は15分ほど部屋に入ったままで何か話し込んでいるようでした。


私たちはそうちゃんのところへ行き、覗き込むと、とても無邪気な表情で手を動かして反応してくれました。

こんなにも頑張って成長も変化も沢山見せてくれているのに…

そう思うと、そうちゃんの前では泣かないと決めたのに、やるせなくて思わず涙が溢れてしまいそうでした。


すると看護主任さんが私たちのところに来て、私たちを気遣うような優しい表情で、ある提案をしてくださいました。

「そうちゃんが苦しいのが少しでも軽減されるように、いつも3時間おきに入れていたミルクを、持続注入って言って24時間かけてゆっくり少量を流し続ける方法に変えてみようかと思って。そしたら逆流もしにくくなるだうし、呼吸も楽になるかもしれないから試してみていいかな?」

いつもどんな時も、そうちゃんにとっていいことを一番に考えて提案してくれる看護師さんたち。

きっとセンター長も一生懸命考えてくれていたのだと思いますが、センター長の言葉からその気持ちを汲み取れずに、葛藤ばかりだった私たちをいつも救ってくれていたのは看護師さんたちでした。

そうちゃんにとって良いことは何かをいつも一番に考えてくださり、その温かい気持ちが私たちの大きな励みになっていました。


すると、看護主任さんはとても穏やかな表情で、そして少し声を細めて、「ここの看護師としてじゃなくて、一個人として聞いてもらいたいんだけど」と前置きをして話をしてくれました。


「そうちゃんはすごく頑張ってるし、すごく変化もしてる。もっと前向きな治療をしたいお母さんたちの気持ちもすごく分かるし、そうちゃんにはまだまだ沢山の可能性があると私も信じてる。でも、医師の考え方もやり方も本当に色々だから…。」


少し間を置いて、次に看護主任さんから出てきた言葉は、想像もしていなかった言葉でした。


「セカンドオピニオンしてみたらどうかな?」


私たちはとても驚きました。

センター長とどう関係を築いていけば良いのかとそればかりを考えていて、他の病院や先生に診てもらうなんて選択肢は考えてもいなかったのです。

とても勇気のいる有難い提案をしてくださった看護主任さんには感謝でいっぱいでしたが、私も主人もすぐには答えが出せませんでした。