そうちゃんの様子は、私たちから見るととても穏やかで、呼吸も落ち着いているように見えましたが、そう見えていたのは、意識が朦朧としていて活気がなく、自発呼吸も弱っていて呼吸器に頼った状態であるからだということを知ると、その穏やかさが突然不安に変わってしまいました。
そして、ミルクは全く吸収されず、それどころかいつもミルクを入れている胃に繋がるチューブからは見たこともない緑色の液体が次から次へと逆流してきていて、これは胆汁が出てきてしまっていて状態としてはとても悪いと知らされていました。
それでも時折見せてくれるそうちゃんの優しい笑顔に救われながら、私たちはただ見守ることしかできませんでした。
そうちゃんは体が辛いのか、夜中になってもぼんやりとはしていてもなかなか眠れずにいました。
すると突然、そうちゃんの鼻から真っ赤な血が流れてきたのです。
私も主人も驚き、慌てて看護師さんを呼びました。
すぐにガーゼを当てて処置をしてくださったので、そのうち止まるかなと思っていましたが、その血の量は時間と共に増えていく一方で、気づくと口からも血が流れ出てきてしまいました。
小さなそうちゃんの身体から沢山の真っ赤な血が流れていくのを見ているのはとても辛くて、私は怖くて仕方がありませんでした。
とうとうその時が来てしまったのではないかと、考えたくないのに、悪いことが頭をよぎってしまって、涙が出てきてしまいそうなのをただただ必死でこらえていました。
少しして当直の優しそうな女性の先生が来てくださり、応急処置として薬を染み込ませたガーゼをそうちゃんの鼻に詰めてくださいましたが、そのガーゼはあっという間に真っ赤になってとれてしまい、そこから先生と看護師さんが付ききりの状態が続きました。
そして、看護師さんに任せられる状態になったところでやっと、先生からお話がありました。
そして、この出血の原因に私たちは驚きました。
そうちゃんは痰が増えてきていたので、普段は口腔内と気管の吸引だけでしたが、その日の担当の看護師さんは鼻からも吸引をしていました。
鼻からの吸引は初めてのことで、少し驚きましたが、それほど痰が増えているのだろうくらいにしか私たちは思っていませんでした。
ところが、その鼻の吸引が鼻の粘膜を傷つけ出血させてしまい、そして今のそうちゃんは血を固める力が弱っているので、それで出血が止まらない状態になってしまっているのだと説明を受けました。
簡単に言うと鼻血のようなものなのだそうです。
状態が悪くなって吐血しているのだと思っていたので、鼻血と聞いてほんの少しだけ安心することができました。
ところが安心したのも束の間、出血量が多いので、このまま出血が続くと輸血が必要になるかもしれないと説明を受け、私たちは急遽輸血の書類にサインをすることになりました。
鼻血とはいえ、鼻から口から血を流し続ける姿はとても痛々しくて、看護師さんでも追いつかなくなり、途中から私と主人で交代でその出血をガーゼで拭き続けることになりました。
時間と共にそうちゃんも目に見えてぐったりしてきていて、そんな姿を見ていると、こんなに小さなそうちゃんにこんなに頑張らせてしまっていいのか、もう楽にさせてあげたい…そんな気持ちが出てきてしまいました。
まさか自分がこんな気持ちになるなんて思いもしませんでした。
何があっても絶対にそうちゃんとずっと一緒にいたいと、これまでずっとそう思ってきていたのに。
でもそれ以上に、何時間も血を流し続けてぐったりとしている息子の姿は辛くて可哀想で、もう解放してあげたいという気持ちが大きくなってしまったのです。
このとき初めて、私たちは覚悟というものができたような気がします。
私たちは決して言葉にはしませんでしたが、私も主人も心の中で思っていたことは同じでした。
『そうちゃん、もう十分だよ。もう頑張らなくてもいいよ。』
私たちは寝る間を惜しんで朝までずっとそうちゃんを看病し続けました。
そして、朝の採血の時間になり、気づくと日勤の看護師さんや先生方が少しずつ増えてきていて、静かだったNICUにも少し活気が出てきていました。
採血の結果が出るのは早くても30分後くらい。
そうちゃんの様子は、昨日より明らかに元気がなく、笑顔もすっかりなくなっていました。
覚悟はしていましたが、でもやはり、
『どうか奇跡が起こりますように』
心の中で必死に願っていました。