主人が病院に到着した頃には、そうちゃんの処置も私の気持ちも落ち着いていました。

とても穏やかに見えるそうちゃんを見て、私も主人も安心していました。

点滴が効いてるのかな。

そうちゃんの表情は優しく微笑んでいるようにさえ見えて、呼吸も不思議なくらいに落ち着いていました。

ただ、やはり手足が冷たいのが気になったので、私たちはそうちゃんにタオルをかけて夜に家に帰りました。


翌日の朝、私たちはいつもより早く病院へ向かいました。

きっと大丈夫。
昨日より良くなってるはず。

昨日ひとりでいた時には悪いことばかり考えて落ち込んでいたのに、ふたりでいると不思議と前向きに考えることができました。

それでもやはり心配だった私たちは、少し緊張しながら足早にNICUへ向かい、いつも通りインターホンを押しました。

しかし、私たちはその時NICUへは入れず、案内されたのはいつも先生方と話をする個室でした。

部屋に入ってきたセンター長の厳しい表情を見てとても嫌な予感がしました。

「今朝採血をしましたが、CRPの値は24まで上がっていました。それから、カリウムの値も8.0まで上がっていました。これは、いつ不整脈を起こして突然死してしまってもおかしくない値です。大人だったらすでに心肺停止になっている値です。」

「今回はおそらく細菌による感染症で、菌が血液に入り敗血症になってしまったのだと思います。すでに様々な臓器の機能の低下が見られますし、おそらく筋肉崩壊も始まっていると思われます。抗生剤を変えてはみましたが、残念ですが、救命は難しい状態です。会いたいご家族がいましたら連絡してあげてください。」

先生の言葉が現実のことと思えなくて、私も主人も何も言えないまま動けないまま、ただ涙が止まりませんでした。

『救命できない』
この言葉を、これまで可能性として何度も聞かされてきました。
それなりに覚悟もできていると思っていました。
でも、覚悟なんて全然できていませんでした。
まさか現実になるなんて、分かっているようで分かっていませんでした。


家族に連絡をと言われましたが、私が泣きながら精一杯振り絞って言えた言葉は、「そうちゃんに会いたい」でした。


センター長の表情からも悔しい気持ちが伝わってきました。
隣の若い主治医の先生も看護師さんも黙って俯いたままでした。


頑張ってるそうちゃんの前では涙を見せたくなくて、私と主人は溢れる涙をしっかりと拭ってからそうちゃんのところへ行きました。

どんなにぐったりしてるのだろうかと不安な思いでベッドへ向かい顔を覗き込むと、私たちに気づいたそうちゃんは口を閉じたまま、とても穏やかな表情で笑ってくれました。

まるで、心配する私たちに「心配しないで、大丈夫だよ」と言っているかのように、優しく笑ってくれました。

「笑う余裕なんてないはずなのに…不思議な子だね…」

センター長が力なく言ったその言葉を聞いて、私は涙をこらえられませんでした。
隣にいた主人も目を赤くしてそうちゃんをじっと見つめていました。

そうちゃんと別れたくない。

そんな思いばかりが強くなり、悔しくて悲しくて仕方がありませんでした。


でも、家族みんなにもそうちゃんが頑張ってる姿をちゃんと見せてあげなきゃ。

やっと少し落ち着きを取り戻せた私たちは私の両親と弟たちと、そして遠方にいる主人の両親にも連絡をしました。

落ち着いたと思っていたのに、母の声を聞くとまた涙が込み上げてきて、隣で電話している主人も泣いていました。


しばらくして私の両親と弟は病院に到着しましたが、主人の両親は遠方だったので翌日に来てくれることになりました。

両親たちが来ても、そうちゃんはとても穏やかで優しい表情をしていて、そんな様子が安心でもあり切なくもありとても複雑な思いで過ごしました。

そうちゃんの様子は見た目には目立って悪くなる様子もなく夜を迎えましたが、心配で仕方がなかったので、一度家に帰ってお風呂や着替えの準備をさっと済ませてまた病院へ戻り、その日はずっと朝までそうちゃんと過ごすことにしました。


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夜の着替えのとき、頑張っているそうちゃんをちゃんと残そうとカメラを向けると、また微笑んでくれて、優しい笑顔を残すことができました。