そうちゃんの呼吸状態はずっと変わることはなく、人工呼吸器を付けていながらも頻繁に多呼吸になり、汗をかきながら一生懸命呼吸をしている姿はとても辛そうに見えました。

しかし一方で、自発呼吸はしっかりあったので、呼吸器を外してもしばらくはサチュレーションが下がることはなく、呼吸器をしていてもしていなくても私には同じ呼吸状態に見えて、それがなぜなのかいつも不思議でなりませんでした。

呼吸器が合っていないのではないかと感じることもありましたが、やはり素人では色々な角度から考えてみても結局原因はよく分からないままでした。

少し接しやすくなっていたセンター長にも、呼吸のことは何度も質問もさせてもらいましたが、やはり何度聞いても誰に聞いても解決しないまま、見守ることしかできませんでした。


そしてある日、私たちはセンター長から突然話があると言われ、重大な選択を迫られることになりました。


センター長によると、これほど長期に渡って同じ挿管チューブを使用し続けることは通常はなく、衛生状態も悪く感染のリスクがどんどん上がっていくので、さすがにそろそろチューブの交換をしなければ、最悪の場合、ヨゴレが溜まってチューブが閉塞するということも考えられるという内容でした。

挿管チューブとは、人工呼吸器とそうちゃんの気管を繋いでいるチューブで、呼吸を補助してくれている大切な命綱です。

通常は1~2週間で交換するそうですが、そうちゃんは顎が小さく舌根沈下もあるという理由で、再挿管が困難な可能性が高く、どうするべきかと考えているうちに2ヶ月も経ってしまい、そろそろ限界だと考えられたようです。


再挿管を選択した場合、すぐに挿管ができる保証はなく、挿管困難により酸欠状態が続くと脳に障害が残ったり、救命できないような状態になることもありうると説明されました。

案外簡単にできるかもしれないし、かなり困難になるかもしれないし、やってみないと分からないとのことでしたが、おそらく簡単ではないだろうというのが先生方の見解でした。

かと言って、このままずっと同じ挿管チューブを使い続ければ、いつ閉塞するか分からず、再挿管できずに突然死ということもありうると言うのです。

どちらにしても覚悟が必要なこの選択に、私たちはどうしたら良いのか、絶望的な気持ちになりました。

こんなに毎日頑張ってくれていて、こんなに沢山の成長を見せてくれているのに、私たちの選択ひとつで、そんなそうちゃんの命を奪ってしまう可能性があると思うととても怖くて、急ぎの話だと言われても、私たちは決断できずに呆然としていました。


そんな時、センター長がふと、

「まぁファイバーで見てみるっていう手もあるけど…」

隣にいた若い主治医に小声で話したその言葉を私は聞き逃しませんでした。

「ファイバーって何ですか?」

必死だった私は聞こえたその言葉をすぐに質問しました。

センター長によると、ファイバーとは正式にはファイバースコープというもので、細い線の先端に小さなカメラがついていて、それをそうちゃんの挿管チューブに入れればどのくらい閉塞が進んでいるのかを確認することができる、というものでした。

閉塞の進み具合によっては迷っている暇はないし、まだ余裕がありそうであれば少しだけ決断を先延ばしにできるという、一時しのぎにすぎないものでしたが、なかなか決断できない私たちのためにやってみても良いかもと言ってくれました。

ファイバースコープを入れている間は呼吸器を外さなければならないので、もしかしたらそうちゃんは少し苦しくなるかもしれないけど、命に関わるようなことはまずないと聞いて安心し、私たちはお願いすることにしました。

すると早速翌日にやってみるという話になりました。


どちらにしても、どんな結果でも、そう遠くはない未来に必ず再挿管はしなければならないので、私たちはそうちゃんを信じていましたが、同時にちゃんと覚悟もしなければならないという現実を目の当たりにしていました。

万が一のことを考えなければならないということは、想像以上にとても辛くて、覚悟なんて到底できませんでした。

ただただ怖くて、想像すると涙が止まらなくて、この時ばかりは自分の弱さを痛感しました。