退院して久しぶりに家に帰ると、たった11日間の入院でしたが、なんだか違う家にいるような不思議な感じがしました。
でも、やっぱりそこは、とても落ち着く場所でした。
物音を聞いた父が降りてきて、たわいもない話をして、主人が簡単な昼食を作ってくれて、そんな日常の景色がとても幸せに感じました。
やっぱり家っていいな。
しみじみと思いました。
ただ唯一、部屋に置いてあるベビーベッドを見ると、少しだけさみしい気持ちになってしまいました。
一緒に帰ってくるはずだったのにね。
考えないようにしていても、やはり少し切なくなってしまっては、慌ててその感情をかき消していました。
昼食を済ませた私たちは、早速そうちゃんのいる病院へ向かいました。
NICUの雰囲気にもすっかり慣れてきて、緊張することもなくなり、看護師さんに挨拶をしながら私たちはそうちゃんの元へ進みました。
そうちゃんは目は閉じていましたが、モゾモゾと動いては、時々真っ赤な顔をして、その日はなんだか苦しそうに見えました。
いつもと違う様子に少し戸惑い、その日の担当の看護師さんに様子を尋ねましたが、「今日も落ち着いてますよ」と話してくれて、そうちゃんの横にあるモニターが脈拍数やサチュレーション(酸素飽和度)、呼吸数を示していることを教えてくれました。
そして、そうちゃんの数値はすべて正常の範囲内で、苦しそうに見えるけど苦しい訳ではないことも丁寧に教えてくれました。
これまでほとんど病院と縁のなかった私は、見るものすべてが初めてのものばかりで、聞いても半分くらいしか理解できず、『とりあえず大丈夫ならよかった』と安心しました。
それでもやはり、その日のそうちゃんは苦しそうに真っ赤に顔をしかめることが多く、大丈夫と分かっていても私は気になってしまいした。
どうしたんだろう。
何かできることはないかと、声をかけてみたり触ってあげたりしても、落ち着いてくれるどころかむしろ泣き顔が増えてしまい、自分の無力さを痛感しました。
そしてこの時、ふと気づきました。
そういえば、周りではそうちゃんよりずっと小さな赤ちゃんが大きな声で泣いているのに、そうちゃんはおとなしいな…。
NICUでそうちゃんに会えたのはまだ3回目でしたが、いつも寝ていることが多く、ましてや声は一度も聞いたことがありませんでした。
不思議に思って看護師さんに聞いてみると、
「挿管してると、声は出せなくなるんですよ」
私はそんなことも知りませんでした。
人工呼吸器が付いてると声出せないんだ…。
早く元気いっぱいに泣かせてあげたいな。
赤ちゃんたちが普通にしていることが、そうちゃんにはさせてあげられなくて、心が痛みましたが、この時はただ、そうちゃんが1日も早く良くなってくれることを祈ることしかできませんでした。
やっぱり最後は離れがたくなってしまい、そうちゃんとバイバイするのにまた何十分もかけて、ようやく帰ろうとしたその時、看護師さんから呼び止められました。
「明後日、先生からお話があるようです」
一気に緊張が走りました。
ずっと聞きたかった主治医の先生の話。
でも、それはとても不安なことでもありました。
ちゃんと全部受け入れる覚悟をしないと。
主人も私も緊張した面持ちのまま「お願いします」と看護師さんに伝えました。