術後で動くこともできませんでしたが、かと言ってテレビを見る気持ちにもなれず、息子の様子が気になって落ち着かない時間をひとり過ごしていました。


そんな私の様子を気にかけてくださった
助産師さんが、時々病室を覗いては話をしにきてくださり、誰かといると気も紛れて、少し無理にでも笑顔をつくると自然と心も軽くなり、前向きになれるような気がしました。

夜勤は看護師1人体制だったので、こんなに私のところにいてくれて大丈夫なのかな、と気にはなりましたが、家族もいなくなり少し心細かった私は、その助産師さんの優しさに甘えさせてもらうことにしました。


19時半には主人から病院に着いたと連絡がありましたが、息子の処置に時間がかかっていてまだ息子には会えていないようでした。


本当に現実のことなんだろうか…。

ひとりになると、出産したことさえも今日の出来事とは思えないほどに、現実味のない不思議な感覚に陥り、どう過ごしていたのかもあまり思い出せないくらい、おそらくボーッと過ごしていたんだろうと思います。


すると部屋の扉がコンコンと鳴り、
また助産師さんが来てくださいました。

手には懐かしいラジカセのようなものを持っていて、「よかったら音楽聴く?」と遠慮気味に聞いてくれました。

私は無欲の状態でしたが、その優しさが嬉しくて、笑顔で「聴きます」と答えました。

そして、とても落ち着くヒーリングミュージックが聴こえてくると、少し心が癒されていくような感じがしました。


すると、助産師さんが控えめな笑顔で、

「あのね、無理しないでね。辛かったらちゃんと泣いてね。」

「ずっと笑顔でいるから、ちょっと心配になっちゃって。」


突然の言葉に私は少しびっくりしましたが、このとき初めて家族以外の人の前で涙が堪えきれずにボロボロと泣いてしまいました。
でも、辛いとか悲しいとかそんな感じではなくて、あたたかい言葉がすごく心に沁みわたって、そんな言葉をかけてもらえたことへの嬉し涙だったと思います。


そして、泣くとまた少し気持ちがスッキリして、涙を流した分だけ少しずつ前を向き強くなっていっているような気がしました。

心のままに涙を流すことって、時には大事なのかもなぁと思いつつ、でも、頑張ってる息子を想い、心の中で『もうママ泣かないからね』と約束をしました。


そして、主人が病院に着いてから3時間が経ってからやっと、息子に会えたと連絡がきました。

『人工呼吸器を付けてるけど、心臓は問題ないみたいだし、元気に動いてたよ』

あとから分かったことですが、この時、本当は先生から色々と不安なことも言われていたみたいです。
でも、検査はこれからで、まだ確実な結果が出ていたわけではなかったことと、術後の私の身体を気遣ってこの時には言わないでいてくれました。


私は主人からの報告にホッと安心して、『泣かない』と約束したはなから、頑張ってくれた息子を想うと涙が止まりませんでした。


そして、感染症予防のために、19時以降の面会も家族のお泊まりも禁止の産院でしたが、『今日はひとりだと心細いだろうから』と23時に戻ってきた主人を助産師さんが特別に入れてくださり、一晩だけお泊まりを許可してくれて、おかげでその日は安心して眠りにつくことができました。