私が泣いている間、主人は涙することなく、終始穏やかな表情で静かに手を握っていてくれました。

その手はとても心強く、泣いて少しスッキリもできて、『赤ちゃんも一生懸命頑張ってくれてるんだし、私がメソメソしてちゃダメだ!』と気持ちを切り替えることができました。


するとベテラン看護師さんが来て、
「そろそろ病室に戻りましょうか」
と声をかけてくださいました。


泣き虫な母は、きっと泣いてるかな。
悲しんでるかな。

母を想うとまた溢れてきそうな涙を必死でこらえました。


そして病室に戻ると、母は笑顔で迎えてくれました。
いつもは少し頼りない母の気丈な笑顔に、何か話すとまた泣けてしまいそうな私は、ただ笑顔を返すことしかできませんでした。

主人と母がいてくれて本当によかった。
一緒に乗り越えてくれる人がいるということはこんなにも心強いことなんだと、心から感謝しました。


しばらくすると、病室におじいちゃん先生が来ました。

「ごめんなぁ…」

とても落ち込んだ様子でした。
なんで謝るんだろう、一生懸命やってくれたのに。
きっと、先生にとってもかなり想定外のことだったんだな…と思いました。
そして、出産直後の様子を教えてくれました。

「産まれてすぐに呼吸が弱かったから、挿管しようとしたんだけど、口がなかなか開かなくてね…でもなんとかできたんだけどね。」

挿管とは、呼吸が弱かったりなかったりするときに気道を確保するために気管にチューブを入れることだと教えてくれました。
そして、挿管することで精一杯の状況で、呼吸が弱い原因はよく分からなかったということも。


「あと、関節拘縮があってね、足に変形がある状態で固まっちゃっててね。逆子が治らなかったのはそのせいかもなぁ。」

関節拘縮…。
初めて聞く言葉に少し不安になりましたが、弱いながらも自発呼吸があり、心臓には問題なさそうだと聞いて少し安心しました。そして赤ちゃんは男の子だと教えてくれました。

本来であれば一番近くの病院に救急搬送されるのが普通ですが、息子は、病院に疎い私でもよく知っている、少し離れた街中にある大きな総合病院へ搬送されたことを知りました。


そこにはおじいちゃん先生が昔から仲が良くて信頼できる小児科医師がいて、その病院の新生児集中治療室(NICU)のセンター長をしているので、個人的に連絡をとってお願いしてくれたとのことでした。
とても優秀な方なので安心して任せられるよ、と話してくれました。


少し強面だけど、一生懸命向き合ってくれて頼りになるおじいちゃん先生。
産婦人科を開業するまでは、ずっと大きな病院のICUで長年勤務していたことを教えてくれました。
そこでの経験があったから、迅速に対応してもらえて、挿管もしてもらえて、息子は命を助けてもらうことができたんだと思います。

そしてその頃から、現場で一緒に切磋琢磨してきた信頼できる医師に、息子を任せてくれました。


「ご主人はお子さんのいる病院にこれから向かえますか?私も気になるので行こうと思ってます。」

忙しいのに、遠くの病院まで様子を見に行ってくださると聞いて、本当に有り難く感じました。


間もなくして主人と母と先生は息子のいる病院へ向かい、外はすっかり暗くなっていて、静かになった病室には、かすかに他の部屋から元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。

息子もがんばってくれてるんだから、と頭では前向きに考えていても、気づくと自然と涙が溢れてきていました。