種まく人がシルエット
平けく、安らけく
人はそうありたいと思うものです
静まり返る森の中、ぽつんとひとり
ただ、ぼんやり、ぼうっとしてる
それができない、どうしてだろう
ファイブGだ、ハヤブサだ
ど真ん中を射止める、やぶさめだ
新しいものが物珍しい
置いてきぼりを食うのが、怖いのだ
小心者に違いない
追い打ちかけて、畳みかける
「犬畜生に、さりゃ、おとる」
今じゃ、まったく、聞くことはない
言わずと知れた、俺のこと
性根の腐った「そくなれ者」だ
直訳すれば,名誉棄損だ
犬畜生にも、なれない人のこと
南無阿弥陀仏と唱えるだけで
ただ、それだけで、いいはずなのに
不気味な気配、背後霊
にゅうっと、手が出る、首伸びる
お岩、貞子に化けやがる
「なんまいだ」が、何枚だ
冗談じゃない、ふざけんな
嫌でたまらない
透明になれたらいいと思う
僕は大人になりたくない
父親は浮気して母親を苦しめた
男は助平で野蛮で不潔で馬鹿みたい
子供にとって、いや、誰であろうと
こんなに怖いことはない
「人は、死ぬために成長しているなんて」
この理不尽さに、気づいたとたん
死は、「なんて残酷なんだろう」と
死を恨んで、恐れおののく
すべてを粉々に壊してしまう死を
いや、誰であろうと、そう思う
※西加奈子著「まく子」の紹介コラムより
「種まく人」がシルエットかな