「…昔は……そんなことも考えたりした……
でも…実際この歳になったら……
面倒になってきて……それに……」
「……それに…?」
じっと俺の顔を見つめる翔…
「……それに…誰といても……
何か違うって……結局…いつもそう感じて……」
「…何か…違う…」
翔が…ゆっくりうつ向いた…。
好きになって…一緒に居ても…
やっぱり違うんだよ…
それに気付いたら…もう一緒に居られなくて…
そうなるなら…もう誰とも……
「……俺も…」
「…え?」
「……俺も……今……そう感じてる…」
「え!?」
翔が再びソファに座った…。
指を組んで…親指をクルクル動かす…
翔が考え事をしている時の癖だ。
俺はじっと静かに待った。
翔の言葉を…。
「……普通はさ…
仕事して疲れて家に帰ったら…
ホッとして…癒される………
俺もそんな風になるんだろうなって
思ってた…。」
…翔…?
「…最初はそうだった…。
…でも……だんだん……息苦しく感じてきた…。
一人じゃ飯もろくに作れない俺だけど……
毎日飯を作って待ってられると…
正直……疲れる…。」
…ったく、…ひでぇ言い種だなぁ。
「……一人になりたい時もある…。」
…それはわかる。
「…やっぱ俺って…
結婚に向いてなかったんだなって……
やって初めて気付いた…。」
…バカだなぁ。
「…バカだと思わない?」
ドキッ…
翔がこっちを向いた…
「…思う…。んふふ。」
「っ、…。」
翔がプイッと顔を反らして
体を反対側を向けて足を抱えた。
…だからなんだよその態度……ガキだな。
俺はキッチンから
ウイスキーと氷とグラスを持ってきた。
カランカラン~
「…置いとくな。」
翔の前に置いて俺は自分の酒を飲んだ。
しばらく沈黙が続いた。
でも、俺と翔はこういうのが当たり前だった。
悩み相談中ならなおさら。
考えがまとまるまで…納得がいくまで…
気持ちが楽になるまで……
だから沈黙も全く気にならない。
それに俺も…翔には何度となく
悩みを打ち明けてきたから…
翔は俺にとって
唯一そういう存在だったから…。
「…智くん…?」
「…ん?」
翔がゆっくり振り向いた…
「……俺……戻ってもいいかな…?」
「…戻る…?」
「…うん。」
…それって…
「…俺…離婚する…。」
「っ、!?」
翔が…そう言ってウイスキーを飲んだ…。