俺は…ボーッとしたまま、

その場から動けなかった。




ニノが…誰となにをしようとニノの自由。




それなのに…どうして俺は…

こうも落ち込んでいるんだろう。





ブブッ!




ビクッ…




ポケットからスマホを出した…






《まだ?》




彼女だ…!




俺は急いで自転車置場に走った。








「はぁ…はぁ…!」




「遅い!」




「ごめん!」




「早く行こう…。」




「…ぅん。」






自転車に跨がると…

彼女は後ろに乗って俺の腰にしがみついた。




いつもより…密着してくる…






「…行くよ?」




「…ぅん。」




それに…いつもと違う?







黙って自転車を走らせた…





すぐに彼女の家の前に到着した。






「…?」




降りない彼女が気になって振り向いた…




「…降りないの?」






「…今日はデート…だよね?」




「え!」




そう言えば…忘れてた。





部活がない日はデート…だった。






「あ!ごめん!つい…」




癖で…





「どこへ行く!?」





「…大野くんの家…。」




ドキッ…




「…家か…」




「…ダメ…なの?」






「…いや…ダメって言うか…」




父ちゃん…寝てるかもしんないし…





「…行きたい。」




ドキッ…




もしかして…これって……





「…家に父ちゃんがいたら…無理だけど…」




ぎゅぅう…と彼女がしがみついた…






俺は…覚悟を決めてペダルを踏み込んだ…。







海沿いの道を走りながら…

やっぱり俺の頭の中はニノと櫻井くんの

ことばかりだった。






今頃…ニノの家で…って…




俺だって今から後ろの彼女と…

そういうことをしようとしているのに…




俺ってホント身勝手だよな。






例え…ニノと櫻井くんが…

付き合うようになっても…




俺が何かを言える立場でもない…。







キキィ!




家に到着した。







「…お父さん…いる?」




「…わかんない。とりあえず入ろう。」




「ぅん。」





自転車を停めて玄関のドアを開けた…






「…ただいま。」  




…シーン。





居たとしても寝てるかもしれない。




 

「…お邪魔…します…。」




彼女が静かに入ってきた。




靴を脱いで上がった…






「先に部屋に入ってて。ちょっと見てくる。」




「ぅん。」




玄関を入ってすぐが俺の部屋だった。








俺は居間に入った…




そして、台所へ行って

冷蔵庫から麦茶を出した。

 




グラス2つに麦茶を入れて

居間の隣の父ちゃんの部屋の前に来た…




そして耳を澄ませた…






「ガー…ゴー…ガー…ゴー…」




…寝てる。





そのまま静かに自分の部屋に行くと…






「…お父さん…いた?」




彼女が俺のベッドに座っていた。




小さなテーブルに麦茶を置いてドアを閉めた。





「…うん。寝てた。」




テーブルの前に座って暑くて上着を脱いだ。