こんにちは、さとです。
世界観ブログ9日目の今日は、成長する猫の続き?です。
無事に退院して、梅雨に入った頃。
さと家に大きな転機が訪れた。
もっぱらぬいぐるみ派で、リカちゃんにもシルバニアファミリーにも浮気したことがない私は、とにかく動物が好きだった。
すごく懐かれるとか、世話がうまいとかそういうことは一切ないが、毛に覆われた生き物を見るとたまらなく幸せな気持ちになるのだ。
ある時母の友人の犬がいつの間にか妊娠して、子犬を産んだという連絡があった。
白い犬から生まれた子犬たちはみんな真っ白で、すごく可愛かった。
実家は一軒家だし、周りの家も犬を飼っているところが多かったので、犬を飼うことは何の問題もなかったし、家族全員犬派で犬を飼うことには前向きでもあった。
しかし、これといった決定打がなく、ぼんやりと日々が過ぎていたのだった。
そこに舞い込んだこの知らせは、私の心を躍らせた。
実際に見にも行って、白い犬と暮らす日々を想像しては希望に胸を膨らませた。
そうした流れの中で、少しずつ希望が現実味を帯びてきていたある日。
友達と下校する途中、通学路にあるセブンイレブンの物置を友達が一生懸命のぞいていた。
「あれー、いないなぁ…
ここに子猫がいたんだけど、もう誰かに拾われちゃったのかも」
その時は、ふーんそうなんだ位にしか思わなかった。何しろ頭は飼えるかもしれない白い子犬のことでいっぱいだったのだから。
その数日後。
暗い憂鬱な雨が降り続ける夕刻、クラスメイトと一緒に家で遊んでいた時だった。
雨音に交じって、赤ちゃんの泣き声のような音が聞こえてきた。
最初はどこかの家で赤ちゃんが泣いているのだろうと思ったが、普段はそんな声は聞こえないし、あまりにも至近距離で泣いているような声だったので、それはないと気付いた。
泣き止まない声はどんどん大きくなっていく。
母に言って、声の元を探ることにした。
窓を開けると、先ほどより大きくはっきり聞こえてきた。
それは赤ちゃんの泣き声ではなく、猫の鳴き声だと分かった。
裏の空き家の庭から、必死な声が聞こえてくる。
母が戸を開けて見に行くと、父が入院初日に枕元に置いてくれた小さな茶猫のぬいぐるみと同じサイズの子猫がいた!
しかも、柄も同じような茶色のしましまである。
一応野良猫らしくシャーッ!と警戒して後ずさりしてはいるが、「早くしてよ!」と言わんばかりにチラチラとこちらを見てくる。
近寄ると逃げるふりは一応するが、本気では逃げずあっさり捕まっていた。
家に上げてみると、ぬいぐるみそっくりの子猫は、差し出された平皿に入れられたミルクをスンスンと数回嗅いでから、後ろ足で皿を蹴っ飛ばした。
そして、一直線にソファーに向かい、ごろんとその上で横になった。
何とも偉そうな、女王様猫であった!
雨の中放置するわけにもいかないので、タオルで濡れた毛を拭いて、家に入れておくことにした。
遊びに来ていた子と、名前を何にしようか相談していくうちに、私はこの猫への愛着が爆発してしまった。
友達を家まで送ってから、家に帰るまでも、ずっとワクワクが止まらなかった。
もう私の心はすっかり猫派になり、白い犬のことは忘れ去っていた。
母は犬も猫も飼っていたことがあるので、特にこだわりはないようだったが、
「私たちよりずっと寿命が短いから、いつかは先に死んじゃうのよ。
それでも良い?」
と聞いてきた。
確かに、ペットを飼う上での問題は、そこである。
その日を思うと、自分がどうなってしまうのか想像がつかない。
一生立ち直れない気もする。
でも、今はその時の心配よりも、子猫と一緒に暮らす日々の輝きが大きかった。
私は、それでもいい!と断言した。
その日の夜、父は帰宅するなり困惑のあまり怒り出した。
何せ父は分かりやすく猫アレルギーだからである。
同じ空間に猫が存在するだけで、くしゃみと涙が止まらない。
犬はそれでも屋外に置いておけるから大丈夫だが、猫は天敵レベルにダメだった。
父は猫を飼うことに反対した。
しかし、あと何日だけ、と期限を引き延ばしていくうちに、結局父も情が移ってしまい、ずるずるとそのまま猫との生活が続いていった。
そして、私はさんざん悩みぬいた挙句、20個ほど出た名前の候補があったにもかかわらず、その子猫を「ニャン子」と命名した。
ニャン子は、ノミはいなかったが耳にカビが生えていた。
病院の先生によると、雑種とアビシニアンのハーフだという。
柄は完全にキジトラなのだが、顔はノズルが長く手足もシュッとしていてスタイリッシュだった。
生後三か月ほどで、ニャン子を保護した日からちょうど三か月を引いた3月21日が誕生日とされた。私の誕生日のちょうど一週間後である。
母が近所の人から有力な情報をもらってきた。
近くに住んでいたお金持ちのお家が先月引っ越しをしたそうなのだが、その際に何匹かいた子猫のうち一匹が行方不明になってしまったのだそうである。
引っ越した後もずっと探していたのだが、一ヶ月経っても見つからなかったのだと。
ニャン子はおそらくその行方不明になった一匹なのであろう。
引っ越しをしたお家からかなり離れたセブンイレブンの方までさまよって、さらにそこからまた遠く離れたうちの裏の空き家まで来たのだ。
生後三か月とは思えない大遠征である。
お金持ちのお家で暮らしていたことは、安いミルクを蹴飛ばしてソファーに寝そべったことや、焼いた魚も白身魚しか食べなかったりしたことからも窺えた。
気性も荒くてすぐにかみついたり引っかいたりするので、それはかなり辛かった。
鼻に噛みついてきた時は本気で痛かったし、登校直前に顔を引っかかれた時は、漫画みたいな三本線が鼻の上に出来てすごく恥ずかしかった。
でも、私は嬉しかった。
入院中毎日大きくなっていった猫が、ついに息をして私の前で動くようになったのである!
思ったよりアグレッシブだったけど…サプライズプレゼントの続きが来たような気がした。
これからは父が枕元に置かなくても、大きくなっていくのである。
私はニャン子に運命的なものを感じた。
うかつには触れない猫だけど、私の一番大切な宝になった。