わたしは

わたしの生きる世界を正しく把握しているつもりだ


ここにはミステリもサスペンスも

異世界転生もなければ異色の天才もいない

もちろん学園ドラマではないし

刑事ドラマや医療ドラマも絡んでいない


わたしの世界では爆破事件は起きないし

一刻を争う患者が運び込まれることも

セーラー服の行方を追うこともない


誰が誰を好きで

誰と誰がどこに行って

恋の駆け引きも駆け落ちも

愛憎渦巻く骨肉の争いも

まったく無縁だ


わたしはお仕事ドラマの住人だから

朝が来たら仕事に行って

予定調和のスケジュールをこなして

夜になったら家に帰る

この世界はお仕事ドラマの世界だから

当然

起きる出来事はすべて仕事にまつわることだけ


多少の人間ドラマはあるけれど

おまけみたいなもので

主軸にはならない

主人公は成長しない

与えられた役割のとおり

宝の地図もない

日々淡々と過ごすだけ


それは少し退屈で

でも人が生きるのはそういうもんで

諦めたわけじゃなくて

弁えたんだわたしは

そういうもんなんだって


余命宣告も

全国大会もない

波乱のプレゼンテーションも

何十億を動かす取引もない

騙し合いも殴り合いも

遠距離恋愛もない

神様も出てこない

世紀の犯罪者もいない

少しの意地悪と少しの親切と

あとは無関心の日々


右から左に品物を流すだけ

尊くなどない

心にも残らない

主題歌はもちろんない


でもその程度でいいんだ

たぶん


ドラマにすらならないんだ

たぶん


嫌いだと言えたらいいのに

しがみついて生きているんだ

たぶん