「また、同じパターン」
カウンセリングルームに入ってきたサユリさんは、少し疲れた表情をしていた。
サユリ「...すみません。今日、ちょっと落ち込んでて」
ダイキ「大丈夫ですよ。何があったんですか?」
サユリ「また...また同じことを繰り返しちゃったんです」
そう言って、サユリさんは深いため息をついた。
サユリ「友達に紹介してもらった人がいて。すごく優しくて、安定した仕事もしてて、誠実な人なんです。でも...」
ダイキ「でも?」
サユリ「...なんか、物足りないんです。一緒にいても、ドキドキしないというか」
サユリさんは、自分の言葉に罪悪感を感じているようだった。
サユリ「私って、おかしいですよね。こんないい人なのに。友達からは『もったいない』って言われるし、頭では『この人と付き合うべきだ』ってわかってるんです。でも、心がついていかなくて...」
なぜ「危うい男性」に惹かれるのか
ダイキ「サユリさんが、これまで『惹かれた』って感じた人は、どんな人でしたか?」
サユリさんは少し考えてから、ゆっくりと話し始めた。
サユリ「...強い人、ですかね。仕事でも成果を出してて、周りから一目置かれてるような。でも、優しいわけじゃないんです。むしろ、私に対して冷たいことも多くて」
ダイキ「冷たい?」
サユリ「はい。連絡もマメじゃないし、急に予定をキャンセルされたり。でも、たまに優しくされると...すごく嬉しくて」
そう言いながら、サユリさんは自分の言葉に驚いたような表情を見せた。
サユリ「...なんか、言葉にすると、ひどいですね。こんな関係」
ダイキ「ひどい、と思うんですね」
サユリ「友達にも『そんな人、やめたほうがいい』って言われました。実際、その後うまくいかなくなって...。でも、別れた後も、忘れられなくて」
サユリさんの目に、涙が浮かんでいた。
「頭」と「心」の矛盾
ダイキ「今、サユリさんの中には、2つの気持ちがあるように聞こえます。『頭では優しい人がいいとわかっている』けど、『心は強くて不安定な人に惹かれる』」
サユリ「...はい。まさにそうです」
ダイキ「その矛盾が、苦しいんですね」
サユリ「苦しいです。私、何度も同じことを繰り返してるんです。優しい人と出会って、『今度こそ』って思うんですけど...気づいたら、また違うタイプの人に惹かれて」
少し間があって、サユリさんはぽつりと言った。
サユリ「私って、おかしいんでしょうか」
ダイキ「おかしい、と思うんですか?」
サユリ「だって、普通じゃないじゃないですか。優しい人がいいに決まってるのに」
生物としての「惹かれる理由」
ダイキ「サユリさん、もし...これが『普通じゃない』んじゃなくて、実はとても『自然なこと』だとしたら、どうでしょう」
サユリ「...え?」
サユリさんは、困惑した表情を浮かべた。
ダイキ「サユリさんが惹かれるのは、どんな男性ですか? もう一度教えてもらえますか」
サユリ「...仕事ができて、周りから一目置かれてるような人、です」
ダイキ「周りから一目置かれている。つまり、社会的な地位がある、と」
サユリ「...はい」
ダイキ「それって、実は人間の本能として、とても自然なことなんです」
サユリさんは、眉をひそめた。
サユリ「本能...?」
ダイキ「はい。女性が『社会的地位』や『資源』を持つ男性に惹かれるのは、何千年も前から続いている、生物としての反応なんです」
サユリ「でも、それって...」
言葉に詰まるサユリさん。
サユリ「...なんか、すごく計算高い感じがして、嫌なんですけど」
ダイキ「計算高い?」
サユリ「だって、お金とか地位とか、そういうので選んでるみたいじゃないですか」
ダイキ「ああ、なるほど。でも、これは頭で計算してるんじゃないんです。もっと深いところで、無意識に反応してるんです」
サユリ「無意識...」
ダイキ「人類の歴史を考えてみてください。何万年も前、女性と子どもが生き延びるためには、『資源を持ってくる男性』が必要でした」
サユリさんは、ゆっくりと頷いた。
ダイキ「狩りがうまい男性。集団の中で力のある男性。そういう男性と一緒にいることが、生き延びる確率を高めた」
サユリ「...」
ダイキ「だから、女性の脳は『強さ』『地位』『自信』といったシグナルに、自動的に反応するようにできてるんです」
サユリさんは、じっと考え込んでいた。
サユリ「でも...今は違いますよね。私、自分で働いてるし、別に男性の資源に頼らなくても生きていける」
ダイキ「そうです。頭ではわかってる」
サユリ「頭では...」
ダイキ「でも、心の奥底、無意識のレベルでは、何千年も前からのプログラムが動いてるんです」
サユリさんは、深いため息をついた。
サユリ「...それって、どうにもならないってことですか?」
「優しい人」では満たされないもの
サユリ「...それって、どうにもならないってことですか?」
ダイキ「いえ、そういうわけじゃありません。ただ、理解することが大事なんです」
サユリ「理解...」
ダイキ「サユリさんが『優しい人に惹かれない』のは、サユリさんが悪いわけじゃない」
サユリさんの目に、少し光が戻った。
サユリ「...本当に?」
ダイキ「本当です。それは、生物としての反応なんです」
少し間があった。サユリさんは、自分の手を見つめていた。
サユリ「でも、先生...」
ダイキ「はい」
サユリ「私、DVとかされてる人のこと、わからなかったんです。なんで別れないんだろうって」
ダイキ「...」
サユリ「でも、今なら、わかるかもしれない」
サユリさんの声が、震えていた。
サユリ「私も、似たようなことしてたんじゃないかって。冷たくされても、追いかけちゃう。怒鳴られても、『私が悪いんだ』って思っちゃう」
ダイキ「それは、とても辛かったですね」
サユリ「...はい」
涙が、頬を伝った。
ダイキ「サユリさん、そういう状況で、なぜ離れられなかったんでしょうね」
サユリ「...わからないです。でも、離れられなかった」
ダイキ「もしかしたら、その『離れられない』にも、理由があるかもしれません」
サユリ「理由...?」
ダイキ「強い男性、支配的な男性に惹かれるのは、実は霊長類全体に見られる傾向なんです」
サユリさんは、驚いた表情を見せた。
サユリ「...サルとかも?」
ダイキ「はい。サルの群れでも、リーダー的なオスが、メスから好まれることが観察されています」
サユリ「...」
ダイキ「そして、人間の場合、さらに複雑な要素が加わります」
サユリ「複雑...?」
ダイキ「たとえば、女性のホルモンの状態によって、惹かれる男性のタイプが変わることもあるんです」
サユリさんは、目を丸くした。
サユリ「え...それって、どういうことですか?」
ダイキ「女性の体は、時期によってホルモンバランスが変わりますよね」
サユリ「はい...」
ダイキ「その時期によって、『より強そうな男性』に惹かれやすい時期と、『より優しそうな男性』に惹かれやすい時期があることが、研究でわかってきているんです」
サユリさんは、しばらく黙っていた。
サユリ「...じゃあ、私が揺れ動くのも」
ダイキ「もしかしたら、そういう影響もあるかもしれません」
サユリ「そんな...私、自分の気持ちすら、コントロールできてないってことですか?」
その言葉には、悔しさが滲んでいた。
本能と「選択」の間で
その言葉には、悔しさが滲んでいた。
ダイキ「コントロールできない、と感じるんですね」
サユリ「だって...自分の気持ちなのに」
ダイキ「サユリさん、少し視点を変えてみましょう」
サユリ「...」
ダイキ「確かに、『惹かれる』という感情は、コントロールできないかもしれない。でも、『どう行動するか』は、選べますよね」
サユリさんは、はっとした表情を見せた。
サユリ「...行動」
ダイキ「たとえば、強い人に惹かれたとき。その気持ちを否定する必要はないんです。『ああ、私はこういう人に惹かれるんだな』って、認めてあげる」
サユリ「認める...」
ダイキ「そして、その上で、『この人と付き合ったら、自分はどうなるだろう』って、立ち止まって考える」
サユリさんは、じっと聞いていた。
ダイキ「本能は、生き延びるために最適化されているかもしれない。でも、現代社会で『幸せに生きる』ためには、別の選択が必要になることもある」
サユリ「...」
サユリさんは、ゆっくりと頷いた。
サユリ「先生、正直に言うと...」
ダイキ「はい」
サユリ「優しい人といると、なんか、退屈なんです」
その言葉を口にして、サユリさんは自分自身に驚いたような表情を見せた。
サユリ「...ひどいですよね。こんなこと言うの」
ダイキ「ひどくないですよ。正直に話してくれて、ありがとう」
サユリ「でも...」
サユリさんは、言葉を探すように、少し間を置いた。
サユリ「優しい人といると、安心するんです。この人は、私を傷つけないって。でも、その安心感が...」
ダイキ「安心感が?」
サユリ「...なんか、物足りないんです」
ダイキ「物足りない」
サユリ「はい。なんていうか、こう...」
サユリさんは、手で空中に何かを探るような仕草をした。
サユリ「...ドキドキがないんです」
「不確実性」という麻薬
ダイキ「ドキドキ。それは、何でしょうね」
サユリ「...わからないです。でも、強い人といると、ドキドキするんです」
ダイキ「どんなときに、特にドキドキしますか?」
サユリさんは、少し考えてから答えた。
サユリ「...連絡が来たとき、とか」
ダイキ「連絡が来たとき」
サユリ「はい。すぐに返信が来ないから、『どうしたのかな』『嫌われたのかな』ってずっと考えちゃって。で、連絡が来ると、すごく嬉しくて」
ダイキ「なるほど」
サユリ「あと、会ったとき。なんか、緊張するんです。『今日は機嫌いいかな』『ちゃんと話せるかな』って」
ダイキ「それは、サユリさんにとって、どんな感覚ですか?」
サユリ「...苦しいけど、でも...」
言葉に詰まるサユリさん。
サユリ「...生きてるって感じがするんです」
その言葉が、部屋に静かに響いた。
ダイキ「生きてる、と」
サユリ「はい...」
サユリさんは、自分の言葉に、ハッとしたようだった。
サユリ「...おかしいですよね。苦しいのに、それを求めてる」
ダイキ「おかしくないですよ。その感覚、とてもよくわかります」
サユリ「...本当ですか?」
ダイキ「はい。サユリさんが感じている『ドキドキ』の正体は、『不確実性』なんです」
サユリ「不確実性...」
ダイキ「『この人は、私のことをどう思ってるんだろう』『次、いつ連絡くれるかな』『会ったとき、優しくしてくれるかな』。そういう『わからない』状態が、脳を刺激するんです」
サユリさんは、ゆっくりと頷いた。
ダイキ「人間の脳は、『不確実な報酬』に、とても強く反応するんです」
サユリ「不確実な報酬...」
ダイキ「ギャンブルを想像してみてください。当たるかどうかわからないから、ドキドキする」
サユリ「...あ」
ダイキ「でも、必ず当たるとわかっていたら、ドキドキしないですよね」
サユリ「...そうですね」
ダイキ「優しい人は、『安定した報酬』なんです。毎日連絡をくれる。いつも優しい。だから、安心できる」
サユリ「でも、ドキドキはしない...」
ダイキ「そうです。一方で、不安定な人は、『不確実な報酬』。だから、脳が強く反応して、ドキドキする」
サユリさんは、深く息を吸った。
サユリ「...じゃあ、私、ギャンブルしてたってことですか?」
ダイキ「ある意味、そうとも言えます」
サユリ「...」
サユリさんは、しばらく黙っていた。そして、ぽつりと言った。
サユリ「バカみたい...」
涙の先にある気づき
サユリ「バカみたい...」
その言葉に、自嘲の色が滲んでいた。
ダイキ「バカみたい、と思うんですね」
サユリ「だって...自分で自分を苦しめてたんですよね」
ダイキ「...」
サユリ「ドキドキを求めて、不確実な人を選んで。で、案の定、傷ついて」
涙が、また溢れ出した。
サユリ「...何やってるんだろう、私」
ダイキはしばらく、静かにサユリさんを見守っていた。
サユリさんは、涙を拭いながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
サユリ「小さい頃から、なんていうか...」
ダイキ「はい」
サユリ「...親に認めてもらいたくて、頑張ってたんです」
ダイキ「認めてもらいたくて」
サユリ「でも、なかなか褒めてもらえなくて。もっと頑張らないと、もっといい子にならないとって」
サユリさんは、遠くを見つめるような目をしていた。
サユリ「で、たまに褒められると...すごく嬉しくて」
ダイキ「...」
サユリ「...あ」
サユリさんは、はっと気づいたような表情を見せた。
サユリ「これ、同じだ...」
ダイキ「同じ?」
サユリ「たまに優しくされると、すごく嬉しい。それって...」
サユリさんの手が、震えていた。
サユリ「...子どもの頃と、同じパターンじゃないですか」
その瞬間、サユリさんの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
サユリ「ずっと...ずっと同じことしてたんだ」
ダイキ「...」
サユリ「認めてもらいたくて。不確実な愛情を、必死に追いかけて」
サユリさんは、両手で顔を覆った。
サユリ「...疲れた。もう、疲れました」
ダイキは、静かに待っていた。
しばらくして、サユリさんは顔を上げた。目は真っ赤だったけれど、どこか、すっきりしたような表情だった。
サユリ「...先生」
ダイキ「はい」
サユリ「私、気づきました」
ダイキ「気づいたこと、聞かせてもらえますか」
サユリ「私が求めてたのは、その人自身じゃなかったんです」
ダイキ「...」
サユリ「その人に認められることで、自分に価値があるって確認したかっただけ」
その言葉は、静かだったけれど、確信に満ちていた。
サユリ「だから、不確実な人を選んでたんです。確実に手に入るものには、価値を感じなかった」
ダイキ「...」
サユリ「でも、それって...」
サユリさんは、ゆっくりと言葉を紡いだ。
サユリ「...自分を大事にしてないってことですよね」
その言葉が、部屋に静かに響いた。
ダイキ「サユリさん、今、とても大事なことに気づきましたね」
サユリ「...はい」
サユリさんは、涙を拭いながら、小さく笑った。
サユリ「なんか...今まで見えなかったことが、急に見えた感じです」
本能と現代社会のズレ
少し沈黙があった。サユリさんは、考え込んでいるようだった。
ダイキ「サユリさん、今の話を聞いて、どう感じますか?」
サユリ「...なんか、少し楽になりました」
ダイキ「楽に?」
サユリ「自分がおかしいんじゃないって。こういう風に惹かれるのも、理由があるんだって思えたから」
ダイキ「それは良かったです」
サユリ「でも...これからどうしたらいいんでしょう。このまま、ずっと同じパターンを繰り返すのは嫌なんです」
ダイキ「そうですね。理解することは、第一歩です。でも、それだけでは変わらない」
サユリ「...はい」
ダイキ「サユリさんは、これからどうしたいですか?」
サユリ「...本当は、安心できる関係がほしいんです。一緒にいて、穏やかに過ごせる人」
ダイキ「それが、本当にほしいもの」
サユリ「はい。でも...」
ダイキ「でも?」
サユリ「ドキドキもほしい、って思っちゃうんです」
ドキドキと安心、両方は手に入らないのか
ダイキ「ドキドキと安心感、両方ほしいんですね」
サユリ「...わがままですよね」
ダイキ「わがままじゃないですよ。ただ、そのバランスが難しい」
サユリ「難しい...」
ダイキ「サユリさん、もし仮に、優しくて安定した人と付き合ったとして。最初は物足りなくても、時間をかけて『この人といると安心できる』という感覚を育てていく、というのは、どうでしょう」
サユリ「...時間をかける」
ダイキ「恋愛の『ドキドキ』って、実は長続きしないんです。せいぜい数ヶ月から1年くらい」
サユリ「そうなんですか?」
ダイキ「はい。脳科学的にも、恋愛初期のドキドキは、いつかは落ち着くようになっています」
サユリ「じゃあ、強い人に惹かれてドキドキしても、それも結局消えるんですか?」
ダイキ「そうです。そして、ドキドキが消えた後に残るのは、『この人と一緒にいて安心できるか』『信頼できるか』という部分なんです」
サユリさんは、ゆっくりと頷いた。
サユリ「...そうかもしれない。前に付き合った人も、最初はドキドキしてたけど、時間が経つと、冷たくされることの方が辛くなって」
過去の恋愛パターンを振り返る
ダイキ「サユリさん、これまでの恋愛で、どのタイミングで関係がうまくいかなくなりましたか?」
サユリ「...だいたい、半年から1年くらいです」
ダイキ「そのときに何が起きていましたか?」
サユリ「相手が、私にあまり興味を示さなくなって。連絡も減って、会う回数も減って」
ダイキ「そのとき、サユリさんはどう感じましたか?」
サユリ「...不安でした。『嫌われたのかな』『私、何か悪いことしたかな』って」
ダイキ「その不安を、相手に伝えましたか?」
サユリ「...言えなかったです。言ったら、もっと嫌われると思って」
ダイキ「言えなかった」
サユリ「はい。だから、我慢してました。でも、我慢しすぎて、ある日爆発しちゃって」
ダイキ「爆発?」
サユリ「感情的になって、責めちゃったんです。『どうして連絡くれないの』『私のこと、どう思ってるの』って」
ダイキ「そうしたら?」
サユリ「...向こうが離れていきました。『重い』って言われて」
サユリさんの目に、また涙が浮かんできた。
自分の価値は、相手が決めるものではない
ダイキ「サユリさん、さっき『この人に好かれたら、私にも価値がある』という話をしましたよね」
サユリ「...はい」
ダイキ「それって、サユリさん自身の価値を、相手に委ねているんです」
サユリ「...」
ダイキ「でも、サユリさんの価値は、誰かに認められるかどうかで決まるものじゃない」
サユリさんは、じっとダイキを見つめた。
ダイキ「サユリさんは、サユリさんであるだけで、価値があるんです」
サユリ「...でも、そう思えないんです」
ダイキ「そう思えない。それは、なぜでしょう」
サユリ「...わからないです」
少し沈黙があった。
サユリ「...もしかしたら、小さい頃から、『いい子』でいないと認められなかったからかもしれない」
ダイキ「いい子でいないと?」
サユリ「はい。親に認められたくて、いつも頑張ってました。勉強も、習い事も。でも、なかなか褒めてもらえなくて」
ダイキ「褒めてもらえなかった」
サユリ「はい。だから、もっと頑張らないと、って」
ダイキ「それが、今も続いているのかもしれませんね」
サユリ「...そうかもしれない」
気づきの瞬間
サユリさんは、しばらく黙っていた。そして、ぽつりと言った。
サユリ「私、ずっと『認められたい』って思って生きてきたんだ」
ダイキ「...」
サユリ「だから、強い人に好かれたかった。その人に選ばれることで、自分の価値を確認したかった」
その言葉を口にした瞬間、サユリさんの涙が溢れ出した。
サユリ「...でも、それって、苦しいです。ずっと、相手の顔色をうかがって、嫌われないように頑張って。それでも結局、うまくいかなくて」
ダイキ「うまくいかなくて」
サユリ「はい...」
ダイキ「サユリさん、今、大事なことに気づきましたね」
サユリ「...気づきました」
サユリさんは、涙を拭いながら、少し笑った。
サユリ「なんか...すごく疲れてたんだなって。ずっと、自分じゃない誰かになろうとしてた」
新しい選択のために
ダイキ「サユリさん、これから、どうしたいですか?」
サユリさんは、少し考えてから答えた。
サユリ「...もう、自分を苦しめるような恋愛は、したくないです」
ダイキ「したくない」
サユリ「はい。でも...」
サユリさんは、不安そうな表情を見せた。
サユリ「また、同じパターンに戻っちゃわないか、心配です」
ダイキ「そうですね。長年続けてきたパターンは、簡単には変わらないかもしれません」
サユリ「...やっぱり」
ダイキ「でも、今日サユリさんは、大事な一歩を踏み出しました」
サユリ「一歩...?」
ダイキ「自分のパターンに気づいた。これは、とても大きな一歩です」
サユリさんは、ゆっくりと頷いた。
ダイキ「次に、また強い人に惹かれたとき、どうしますか?」
サユリ「...立ち止まります」
ダイキ「立ち止まる」
サユリ「はい。『あ、また同じパターンだ』って、気づく」
ダイキ「いいですね。そして?」
サユリ「...考えます。この人と付き合ったら、私はどうなるだろうって」
ダイキ「そう。惹かれる気持ちを否定する必要はないんです。ただ、『惹かれる』と『付き合う』の間に、一呼吸置く」
サユリ「一呼吸...」
ダイキ「そして、自分に問いかけてみる。『この恋愛は、私を幸せにするだろうか』って」
サユリさんは、何度も頷いた。
サユリ「...やってみます」
ダイキ「優しい人については、どうでしょう」
サユリ「優しい人...」
サユリさんは、少し困ったような表情を見せた。
サユリ「正直、すぐに惹かれるようになるとは思えないです」
ダイキ「そうですね。それは、無理に変える必要はないと思います」
サユリ「...いいんですか?」
ダイキ「ドキドキがなくても、いいんです。ただ、一緒にいて『安心できる』『心地いい』と感じる人との時間を、大切にしてみてください」
サユリ「安心できる...」
ダイキ「はい。脳科学的にも、恋愛の『ドキドキ』は一時的なものです。そして、その後に残るのは...」
サユリ「...安心感、ですか?」
ダイキ「そうです。『この人といると、安心できる』『信頼できる』『ありのままの自分でいられる』。そういう感覚が、長期的な関係を支えるんです」
サユリさんは、深く息を吸った。
サユリ「...時間をかけて、育てていく感じですか」
ダイキ「まさにそうです」
サユリ「...できるかな」
ダイキ「焦らなくていいですよ。今は、まず自分自身を大切にすることから」
サユリ「自分を、大切に...」
小さな一歩から
ダイキ「サユリさん、今日からできることを一つ、決めませんか」
サユリ「今日から...」
ダイキ「たとえば、どんなことができそうですか」
サユリさんは、少し考えてから答えた。
サユリ「...自分の気持ちを、無視しないようにします」
ダイキ「自分の気持ちを?」
サユリ「はい。今まで、相手に合わせてばっかりで、自分が本当はどう感じてるか、ちゃんと見てなかった」
ダイキ「なるほど」
サユリ「だから、これからは『私、本当はどう思ってる?』って、自分に聞いてみる」
ダイキ「いいですね。他には?」
サユリ「...あと、友達の言葉も、ちゃんと聞きます」
ダイキ「友達の言葉」
サユリ「今まで、友達が『その人、やめたほうがいい』って言っても、聞かなかったんです。でも、本当は心配してくれてたんですよね」
ダイキ「そうですね」
サユリ「だから、次は...ちゃんと聞いてみます。『どうしてそう思うの?』って」
サユリさんは、少し明るい表情になっていた。
ダイキ「サユリさん、すごくいい一歩だと思います」
サユリ「...本当ですか?」
ダイキ「本当です。変化は、小さな一歩の積み重ねです」
サユリさんは、深く息を吐いた。
サユリ「...なんか、少し楽になった気がします」
ダイキ「楽に?」
サユリ「はい。自分がおかしいんじゃないって、わかって」
サユリさんは、はにかむように笑った。
サユリ「それに、これから変われるかもしれないって、思えました」
カウンセリングが終わり、サユリさんは少し軽い足取りで部屋を出ていった。
窓の外を見ると、夕暮れの空が広がっていた。
人は、簡単には変われない。
何十万年も続いてきた本能は、一朝一夕には消えない。
でも、気づくことはできる。
立ち止まることはできる。
そして、選ぶことはできる。
「惹かれる」気持ちは、コントロールできないかもしれない。
でも、「どう行動するか」は、自分で決められる。
サユリさんは、その一歩を踏み出した。
これから、また揺れ動くこともあるだろう。
同じパターンに戻りそうになることもあるだろう。
でも、彼女はもう、自分のパターンを知っている。
それが、変化の種になる。
【カウンセラーからのメッセージ】
女性が「社会的地位」や「資源」を持つ男性に惹かれるのは、決しておかしなことではありません。それは、何十万年もの進化の中で培われてきた、生物としての自然な反応です。
でも、現代を生きる私たちには、「選択する力」があります。
本能に気づき、立ち止まり、自分にとっての幸せを問いかける。
その繰り返しが、あなたを新しい未来へと導いていきます。
一人で悩まず、必要なときは専門家の力を借りてください。
あなたの幸せを、心から応援しています。