数日前、とあるネットニュースを目にした。

 

 

「韓国サバイバル番組「SIXTEEN」の参加者ソン・ミニョンが脱落後初めて近況を報告した」とある。

SIXTEENは2015年に放送された韓国のオーディション番組で、このオーディションを勝ち抜いたメンバーで結成されたのがTWICEであるということは筆者も知っている。

リアルタイムで観ていた訳ではないが、何を隠そう、筆者は2020年にHuluで配信され、日テレの情報番組「スッキリ」などで取り上げられて社会現象にもなったNizi Projectの虜になった一人だからだ。

今更言うまでもないが、Nizi ProjectはTWICEなどを手がけたJYPエンターテインメントとソニーミュージックの共同プロジェクトだ。

最終的なデビューメンバーの人数、構成、そしてNiziUというグループ名が最も早く公表されたのは、ズバリ「デビューメンバー最速公開スペシャル!」と銘打った日テレの「虹のかけ橋」で、放送開始日時は6月25日(木)の24時59分だった。
平日ど真ん中の深夜だが、結果が気になるあまりオンエアまで起き続け、翌日の仕事が心身共に辛かったのは筆者だけではないだろう。

 

 

オーディションには1万人を超える応募があった中、最終選考まで残ったのが12名、デビューすることができたのはわずか9名のみという極めてシビアな世界だ。

直前まで「煽りVTR」を観て、誰が残るはずだの誰に残ってほしいだの散々騒いでいたが、筆者の印象に残ったのは最終選考で敗退した3名の方だった。
デビューメンバーと健闘を称え合う姿を見て、1984年の映画『ベスト・キッド』(原題:The Karate Kid)の最後で、少年カラテ選手権大会の決勝で敗れたジョニーが、優勝者のダニエルにトロフィーを手渡す場面を連想したからだ。

そんな連想がつらつらと繋がったのを思い出し、こうして記事を書いている。

 

 

ジョニーは極めて好戦的な道場、コブラ会のエースで、仲間と共にダニエルを虐めていた人物だ。
ダニエルは自分を守るため、マンションの管理人のミスター・ミヤギから一風変わった方法でカラテを学び、精神的にも技術的にも成長して大舞台でジョニーをやっつけたのだ。

しかも、コブラ会は準決勝でダニエルに怪我を負わせたばかりか、センセイ(先生)・クリーズ(作中でもこの語順)はダニエルが怪我した箇所を狙うよう決勝でジョニーに指示し、その上で負けてしまうという完敗っぷりだった。

そんな『ベスト・キッド』の34年越しの正統な続編として製作されたのは、なんとジョニーを主人公にしたドラマ、『コブラ会』(原題:Cobra Kai)だ。
『ベスト・キッド』でダニエルを演じたラルフ・マッチオ、ジョニーを演じたウィリアム・ザブカを始め、主要キャストが続投して同じキャラクターを演じている。
ちなみに権利は紆余曲折を経てNetflixが取得し、現在シーズン3まで配信されている。

 

シーズン1の序盤は、ダニエルに敗れたジョニーが34年の年月を経て完全な負け犬としての人生を送っているところから始まる。

決勝で師のNo mercyな指示(「情け無用」はコブラ会の標語の一つ)に対し、戸惑った表情を見せたジョニー。
自分の意に添わぬ戦い方をした挙句に敗北したという事実が、後悔となって彼を過去に縛り付け、少年時代から成長できずに、前に進めずにいるのだ。

一方のダニエルは、カラテを通じて人として成長したものだから、ビジネスの場面でも車のディーラー(原体験には師であるミスター・ミヤギに車をもらった時の感動がある)として成功を収めており、ジョニーは人生の巻き返しを図るべくコブラ会を復活させる。

本作ではそれぞれの子供も登場し、親同士、子供同士、親と子供が複雑に絡み合うストーリーで、一時も目が離せない。

 

 

最近、このような「負けた側がどんな思いで人生を歩んできたか」という物語がたまらなく面白い。

『コブラ会』と同じ構造を持つのが、映画『クリード 炎の宿敵』だ。
日本では2019年に公開された本作は、『ロッキー』シリーズの正統続編である『クリード』シリーズの2作目であり、1985年の『ロッキー4 炎の友情』でロッキーの盟友アポロを亡き者にしたイワン・ドラコの息子ヴィクターが、アポロの息子でありロッキーの弟子のアドニスと因縁の対決をする。

伝説的作品の、30年以上経った後の正統続編というのも『コブラ会』と同じなら、ロッキー、イワン・ドラコという親世代の主要キャストを同じ俳優(シルベスター・スタローンとドルフ・ラングレン)が演じているのも共通している。
オリジナルの企画と無名の俳優陣では制作に漕ぎ着けるのさえ困難という事情もあるのだろうが、観る側としては面白ければ文句はない。

本作でも、イワン・ドラコの悲哀、親子と師弟の関係の変化、そして対決の決着の仕方の描き方のどれもが見事である。

 

 

マーベル映画の『ブラックパンサー』(2018年)もこの系譜に入る。
ヴィランであるキルモンガーは、ブラックパンサーが治めるワカンダ王国の闇に葬られた男を父に持ち、王国を乗っ取って変革しようとする様はヴィランでありながら思わず感情移入してしまうほど魅力的だ(実際、インド映画の大傑作『バーフ・バリ』やディズニーの『ライオンキング』ではこちらがヒーローとして描かれている)。
ブラックパンサーとの決闘の際、”I lived my entire life, seeking for this moment.”(この瞬間のためにこそ生きてきた)とキルモンガーが言う場面は、マーベル映画の中でも筆者が最も好きなシーンである。
まさしく負けた側の人間がリベンジのために費やしてきた時間の重みを感じさせる。

 
 

 

 

マーベル映画ではヒーローの過去の罪や影の部分がヴィランとなって現れるのが珍しくないが、キルモンガーのキャラクターの深さ、重みは群を抜いている。
それもそのはず、『クリード』の1作目で監督、2作目で製作総指揮を務めたライアン・クーグラーが監督・脚本を手がけているのだ。
更に、キルモンガーを演じたのはクリード役と同じマイケル・B・ジョーダンだが、彼はブラックパンサーを演じたチャドウィック・ボーズマンが亡くなった際、決闘の場面の別の台詞になぞらえて追悼の意をSNS上でで表明した。
このような作品外の出来事もブラックパンサーとキルモンガーの物語に重みを加えている。

以上、SIXTEENやNizi Projectから連想した作品群について書いた。
まあ、オーディションで敗退したメンバーは、ジョニーと違ってデビューメンバーを虐めていた訳でもないし、クリードやキルモンガーと違って親同士が殺したり殺されたりした訳でもないが...

冒頭の記事では、SIXTEENで敗れた後、「音楽を数年間休んだ」とも書かれているから、10代で苛烈な競争に挑み、敗北するという経験はやはり並大抵のものではないのだろう。

ましてやデビュー後のTWICEやNiziUの活躍を目の当たりにするのはどんな気持ちか想像すら付かない。

しかし、いずれのオーディションでも惜しくも敗退したメンバーだって、プロデューサーのJ. Y. Parkの言葉通り「残った時点で逸材」なのであり、いずれ何らかの形で活躍するのを見るのがファンとして待ち遠しい。
また、そうなることを確信している。

コブラ会の道場の標語の一つにこんなものがあるからだ。

Cobra Kai never dies.

「コブラ会は死なない」と。