トニー・ジャーもイコ・ウワイスも、現在はハリウッドでも活躍する一流アクションスターだ。

タイ出身のトニー・ジャーはムエタイ、インドネシア出身のイコ・ウワイスはシラットという、それぞれ母国の格闘技、武術を中心に身に付け、前者は『マッハ!』(2004年日本公開)、『トム・ヤム・クン!』(2006年日本公開)、後者は『ザ・レイド』(2012年日本公開)などでエクストリームなアクションを見せ、世界中を驚かせた。

 

 

 

最近では彼らが戦うのは人間だけに留まらず、エイリアンをも相手にするようになってきた。

イコ・ウワイスはいくつかの過去作でも共演及び共同でアクションの振付を行った、同じインドネシア出身の盟友にして名優のヤヤン・ルヒアン(『ザ・レイド』では事実上のラスボスであるマッド・ドッグを演じる)と『スカイライン 奪還』(2018年日本公開)で再共演し、地球を侵略するエイリアンをナイフや格闘技術で倒してしまう。
主演はフランク・グリロで、イコ・ウワイスらは中盤から登場して一緒に戦うことになるのだが、これが時に主役を食うくらいに、まあかっこいい。

作品自体が106分と観易い長さで、前作の『スカイライン 征服』を観ていなくてもまったく問題ないのがまたいい(事実、筆者は前作の方を後追いで観たし、前作の方はあまりいい所がない)。

第33回東京国際映画祭でも上映された、3作目の『スカイライン 逆襲』の全国公開が2021年2月26日に控えており、今から楽しみである。

 

 

一方のトニー・ジャーがエイリアンと戦うのが、2021年1月15日公開の『アース・フォール JIUJITSU』だ。
ちなみに本作では主演ではないが、重要なキャラクターを前述のフランク・グリロが演じている。

元々ジャンル映画は好きだし、ジャンル映画を観る上で所謂「ツッコミどころ」を探すのは野暮ということは心得ているが、これは久々にひどい内容だった。
悪い所を挙げればきりがないので省略するが、それにしても、「ホイス・グレイシー完全指導!」という謳い文句の割にアクションも(すごいにはすごいのだが)今一つ真新しさがなかったのも残念でならない。

 

 

このように、似た境遇のトニー・ジャーとイコ・ウワイスだが、役の恵まれ方は違うように思える。

トニー・ジャーのハリウッドデビューは、日本では2015年に公開された『ワイルド・スピード SKY MISSION』だ。
おなじみ「ワイルド・スピード」(ワイスピ)シリーズの7作目で、主人公のブライアンを演じたポール・ウォーカーが本作の撮影途中に交通事故で亡くなったこと、作品終盤で見事な追悼シーンが流れるというメタ構造があまりに有名な本作で、トニー・ジャーはブライアンらと敵対する組織の一員、格闘のスペシャリストを演じた。

 

 

ポール・ウォーカーがもう見られなくなるという悲しさから、ついつい当人に注目して観てしまいがちだが、トニー・ジャーはまさにこのポール・ウォーカーとの格闘シーンを演じている。
しかし、残念ながらキャラクター描写としてはハリウッド映画が過去にも描いてきた「非欧米人の格闘のスペシャリスト」以上ではない。
極めて少ないながらも印象的な台詞”Too slow.”(お前の動きは遅すぎる)というのも格闘シーンの中で言うのだが、最後には同じ台詞を逆にブライアンに言われ、敗北する。

非欧米人は、格闘やその他の身体技術、「東洋の秘術」以外に取り柄がないのか。

ところが、イコ・ウワイスは違った。

2019年に日本公開された『マイル22』でイコ・ウワイスが演じたリー・ノアーは画期的なキャラクターだ。

 

 

CIAの特殊部隊(隊長を演じるのはマーク・ウォールバーグ)が、テロの重要参考人であるリー・ノアーを国外脱出させるため、米国大使館から空港まで22マイル護送するのだが、彼を狙う武装勢力と戦うことになるというアクション・サスペンスだ。

リー・ノアーは基本的にCIAの保護下にあるが、自ら武装勢力とも戦うことになる。
その際の格闘は見事なもので、さすがはイコ・ウワイスと思わせる。

しかし、それだけではない。
リー・ノアーは普通に英語で会話もし、巧みな交渉によってCIAはじめ米国政府を終始翻弄する。
むしろそれがストーリーの基軸であると言っても過言ではない。

「格闘のスペシャリスト」以上の非欧米人が描かれる稀有な例だ。

一方、新たな疑問も湧いてくる。
非欧米人は、必ず格闘技術に精通していなければならないのか。

その答えを見せてくれるのは、(新型コロナウイルスの影響で延び延びになっているが)2021年に公開予定の『ワイルド・スピード ジェットブレイク』だろう。

予告映像はすべてのワイスピファンを驚かせたに違いない。

えっ、ハン生きてたの!?と。

ハンと言えば、日本を舞台にしたシリーズ3作目『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』に登場したキャラクターで、ドミニクのファミリー(一味)だ。

ハンは劇中、交通事故で死亡するが、その事故はジェイソン・ステイサム演じるデッカード・ショウがハンを殺すために意図的に起こしたものだと後にわかり、上述の『SKY MISSION』は、ドミニクがファミリーを殺された怒りでデッカード・ショウと死闘を繰り広げる話だ。

デッカード・ショウはそれ以降の作品で、あっさり許されてファミリーに加わったり、ファミリーの一人であるホッブス(ドウェイン・ジョンソン)とイチャついたりと、どうかと思うような展開を迎えることになるが、ともあれ、そのデッカード・ショウにハンは殺されたものだと思われていた。

ハンが生きていたとなると、『SKY MISSION』での戦いは何だったのか、デッカード・ショウがあっさり許されたのは更に何だったのかという気持ちになるが、嬉しいことに変わりはない。

格闘技術、身体能力が突出して優れている訳でもないし、いかなる「東洋の秘術」も使わないが、ただ単にお洒落でクールという、こちらも稀有な非欧米人キャラクターだからだ。

ワイスピシリーズはなんだかんだ文句を言いつつも、いつも結局観てしまう。
今後の展開が迷走してエイリアンとレースすることになっても、多分観てしまうと思う。