英語遊歩道(その25)-松尾芭蕉『奥の細道』序文-「漂泊の思い」 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

冬休みに入って日中に子どもたちを見かけることが多くなった。どの子も何処か楽しそうに見える。これもクリスマスや年末・年始の風物詩である。

 

以前は100枚近く書いていた年賀状も今は40枚ほどになった。中学からの友人が1人、高校からの友人が2人、大学からの友人が9人、東京勤務時代の友人・知人が11人、福岡勤務時代の友人・知人が5人、北九州勤務時代の友人・知人などが5人、その他親戚などである。

 

友人・知人の中には「年賀状じまい」をする人も多く、年賀状の数は年々減少している。確かに面倒臭くも感じるのだが、とりあえず、元気で字が書けるうちは続けていこうと考えている。

 

 

以下は、有名な松尾芭蕉の『奥の細道』の序文である。クリスマスの夜、過去の年賀状を紐解きながら、何故かそんな文面がふと頭をよぎった。

 

(原文)

月日は百代(はくだい)の過客(かかく)にして、行きかふ年もまた旅人なり。舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老を迎ふる者は、日々旅にして、旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり。

 

予もいづれの年よりか、片雲の風に誘はれて、漂白の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年(こぞ)の秋、江上の破屋(はおく)に蜘蛛の巣をはらひて、やや年も暮れ、春立てる霞の空に、白河の関越えんと、そぞろ神の物につきて心を狂はせ、道祖神の招きにあひて、取るものも手につかず。

 

もゝ引の破れをつづり、笠の緒つけかへて、三里に灸(きゅう)すゆるより、松島の月先づ心にかかりて、住める方は人にゆづり、杉風(さんぷう)が別墅(べっしょ)に移るに、

 

「草の戸も住みかはる代ぞひなの家」

 

面八句(おもてはっく)を庵の柱にかけおく。

 

(拙・現代語訳)

時の流れは永遠の旅人であり、過ぎ去る年もまた旅人である。船の上で一生を送り、馬の口を引いて老いを迎える人々は、毎日を旅として暮らし、旅を住まいとしている。昔の人々も多くが旅の途中で亡くなっている。

 

私もいつの年からか、風に誘われる浮雲のように旅への思いが止まず、海辺をさまよっていた。去年の秋には、川辺の壊れた家で蜘蛛の巣を払いながら年を越した。そして春になると、霞が立つ空の下で白河の関を越えようと思い立ち、心が落ち着かなくなった。道祖神に招かれて、何も手につかない状態になった。

 

股引の破れを繕い、笠の紐を付け替えた。そして、三里の灸を据える代わりにまず心に浮かんだのは松島の月である。住んでいた家は人に譲り、杉風の別荘に移る際に、

 

「草の戸も住む人が変わればひな祭りの家となる」

 

という句を庵の柱に掛けておいた。

 

(拙・和文英訳)

Time is like an eternal traveler, and the passing years are also travelers. Those who spend their lives on a boat or guide a horse into old age live each day as a journey and make the journey their home. Many ancient people have also died while traveling.

 

I too, from some year onward, have been like a drifting cloud, always longing to travel, and have wandered along the seashore. Last autumn, I swept away spider webs in a broken house by the river and saw the year come to an end. As spring arrived with its misty skies, I felt the urge to cross the Shirakawa barrier, and my heart grew restless. Invited by the gods of the road, I couldn’t focus on anything.

 

I mended the tear in my trousers and replaced the strap of my hat. Rather than thinking of the usual remedy of three-league moxa, my thoughts turned to the moon over Matsushima. I gave my house to someone else and moved to Sanpu's cottage.

 

"Even a humble grass hut becomes a doll's house when new people live in it."

 

With these thoughts, I placed the front eight verses on the pillar of the hermitage.