「暑さ寒さも彼岸まで」と言うが、今日は夏が戻ったかのように暑かった。でも車で走る路傍の叢の緑のところどころに鮮やかな赤の「ヒガンバナ」(「曼珠沙華」)が咲いているのを見ることができた。
やはり植物は季節に正直で、秋は確実に来ているようである。
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映画「レッドクリフ」(“Red Cliff”)が日本で公開されたのは2008年11月のことで、私が翻訳者としてデビューしてから半年ほど経った頃だった。
この映画は三国時代の「赤壁の戦い」(208年・冬)を描いたもので、孫権・劉備連合軍と曹操軍との戦いであり、その結果、所謂天下三分の形勢が生ずることになった。
この古戦場「赤壁」を詠んだ詩歌は多いが、今日はその一つを紹介する。実際の戦いは冬であったがこの漢詩の季節は秋である。
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「赤壁」 袁枚(えんばい)
一面東風百萬軍 一面東風百万の軍
當年此處定三分 当年此の処三分を定む
漢家火德終焼賊 漢家の火徳(かとく)終(つい)に賊を焼き
池上蛟龍竟得雲 池上(ちじょう)の蛟龍(こうりゅう)竟(つい)に雲を得たり
江水自流秋渺渺 江水自から流れて秋渺渺(びょうびょう)
漁燈猶照荻紛紛 漁燈猶(なお)照らして荻(てき)紛紛(ふんぷん)
我來不共吹簫客 我来(きた)りて簫を吹くの客と共にせず
烏鵲寒聲聞靜夜 烏鵲(うじゃく)の寒声(かんせい)静夜に聞く
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(現代語訳)
戦場を吹きわたる東風に乗じ、呉・蜀連合軍は魏の百万の水軍を撃破し、天下は魏・呉・蜀の三国により分割して平定されることになった。
蜀(蜀漢)は火徳の相を持つが、蓋し、池上の蛟龍と呼ばれた劉備は、火攻めにより魏・曹操の軍を焼き尽くし、雲の力を借りてついに勝利を収めたのである。
そんな古戦場である赤壁を訪れてみると、長江の水は当時のままに流れ、江の上には秋の景色が広がり、また舟の漁火が岸辺に茂る荻に当たりその光が入り乱れて見える。
私は、かつての蘇東坡のように簫を吹く友人をこの赤壁に連れて来ることはできなかったが、今はただ、烏(からす)や鵲(かささぎ)が静かな秋の夜に寂しげに鳴く声を聞きながら、往時の戦火を偲びつつ懐古の情に浸っている。