私は現在68才(2024年現在)で、今から7年前まで合気道の稽古に通っていました。20数年稽古を続けたことになります。

 合気道は身体を使って行う武道ですので、やはり身体能力が優れた人のほうが上達は早いと思います。私は、こどもの頃から運動が苦手でしたので、技を掛けたり受け身を取ったりする時に華麗な動きはできませんが、自分なりに「合気道とはこういうものだ」ということは理解しているつもりです(「指導員」ができる段位もいただいています)。

 合気道には試合がありません。これは、合気道の創始者である「植芝守平」翁の考え方が反映しているからですが、稽古を続けている間、常に私が考えていたことがあり、それは「合気道は強いのか」ということです。剣道・柔道・空手などで実力者を誉める場合には「あの人は強い」と言うと思うのですが、合気道では、そのような場合、「あの人はうまい」と言うのです。合気道には実戦がありませんので、平常の稽古では「強いか弱いか」を判断することができず、また、そもそも、合気道は勝ち負けを争うようにはできていないのです。

 長年稽古を続けていると、時々、「合気道は型稽古だからいざとなったら役に立たない」とか「あれは踊りのようなものだ」とかいう声を聞くことがあり、釈然としない気持ちになっていました。町を歩いている時に「だれかに絡まれないかな」などとチラッと思ったりもしました。

 「白川竜次」さん(以下「白川先生」と言います)という合気道の指導者の方がいらっしゃいます。白川先生は、まだ40才台前半のお年(2024年現在)で、新進気鋭の合気道家です。宮城県仙台市にある東北最大の会員を有する「合気道神武錬成塾」という合気道の道場長で、毎年世界10か国以上から招聘を受け1年の4分の1は海外指導に赴いておられます。

 合気道には「昇級・昇段審査」という行事があり、上の級や段に進むにはこの審査を受けなければなりません。「級」の頃は決められた課題をこなせば合格するのですが、「段」を上がるにつれ、技を掛ける時の「所作」や「心構え」なども求められることになり、私も大いに悩みました。審査を受ける前の数か月間は、頭の中も心も合気道のことでいっぱいになり仕事どころではありません(←冗談です。仕事はちゃんとやっていました)。

 それで、藁にも縋る気持ちで、YouTubeに投稿されている合気道の映像をいろいろと見て研究するのですが、その時見た映像の中に白川先生が演武しておられるものがあり、それを初めて見た時の私の正直な感想は「動きが奇麗すぎて嘘っぽいな」というものでした。白川先生の技についてのこのような考えが全く的外れだったことを、最近、私は知ることになりました。

 1~2年前だったと思います。「そういえば、ずっと前に見た映画でムエタイでアクションをやっている映画があったなー」とふと思って、YouTubeで検索していたところ、偶然ある映像を見ることになりました。それはどのようなものかと言うと、キックボクシングで数々の王者に輝いている「城戸康弘」さんと白川先生がコラボしている映像でした。城戸康弘さんはキックボクサーですが、ムエタイの本場であるタイで「最強の武術」ムエタイの修行も積んできた方です。私は、それまで、合気道の映像といえば、合気道家同士が技を掛け合う映像(明らかにわざと技を掛けられているものもあります)しか見たことがなく、別の武術をやっている人(しかも実力者)とのコラボ映像、いわば、「他流試合」を見たことがありませんでした。その映像を見る前には、「他の武術をやっている人(しろうとならまだしも)に合気道の技がかかるわけがない。おおかた城戸康弘さんが本気を出さないんだろう」と思っていました。

 その映像を見て驚嘆しました。白川先生はどちらかと言うと小柄です。その白川先生の技が、上背もあるプロのキックボクサーの城戸康弘さんに、本当にかかっているのです。繰り返しその場面を見てみたんですが、白川先生の動きは、普段私たちが稽古している動きと何の違いもありませんでした。ただ、その動きが完全に相手の動きと調和していて寸分の狂いもないことは、私ごときの者の眼で見ても分かりました。「合気道に本当にこんなことができるんだ!」と心から思いました。

 

 

 

 合気道に攻撃の技はありませんが、普段私たちが、自分が中心でありながら相手と一つになる稽古をしているのは、このような動きをするためなのだと思い、目が覚めるような気持でした。

 もちろん、白川先生が、このようなことができるようになるまでには、その優れた資質に加えて、日頃の血のにじむような努力があったことは想像に難くありません。

 白川先生は、これ以外にも、様々な武術のプロの方と積極的にコラボしていて、また、自身のトレーニングの仕方を配信するなど、オープンな形で、一般の方に合気道を理解してもらう努力をしておられます。公開講座などで見学者から「ドロップキックをしてみてください」などと無理な要望があった時にも、合気道の理合いで見事にドロップキックをしたりするサービス精神も持っておられます。

 

 

 

 

 白川先生は、2023年に「美しい合気道」(発行元:KADOKAWA)という本を出版されました。この本は、合気道について、写真入りで、基本的な構えから一般的な技まで全般的に分かりやすく解説しているものです。ところどころに挟んであるコラムもとても興味深い話です。また、QRコードを読み取ることにより多くの映像を見ることができます。

 

※ ツイッターに画像を投稿しました(2024.3.11)。

https://twitter.com/sasurai_hiropon